嘘ゲー:rushtetsu

 ・番外編(ネタバレ注意)「ワッフル久萬太郎のスーパーリアルクエストイベントガイド」 

 ・0「購入記」   ・1「プレイ初日」  ・2「脱出」  ・3「運び屋」  ・4「リアルファイト」  ・5「戦士CAN-DO」
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2004-05-20

[]-スーパーリアルクエスト- その14「天才ゾンビ

夜は瞬く間にやってきた。今日もハンター街で何体かのゾンビを倒しレベル12になっていたが、昨日よりも連続でゾンビに絡まれ続けている。そろそろ道を抜けようとしても、ゾンビにエンカウントする。昨日暴れすぎて、ゾンビどもに目を付けられたのかも知れない。ただでさえ、俺は指名手配中の身のようなものだ。ゾンビと連続してやり合うには、レベルも実力もギリギリだ。

なんとかハンター街を抜け出た頃には、22時30分になっていた。ギボアーノ婆さんを待たせることになってしまった。予定では22時前にいくつもりだったのに。俺はシチ公広場まで走った。人だかりをかき分け、婆さんのテーブルに駆け寄る。婆さんは、フードを深く被って座っていた。

俺は息を整えてから、声をかけた。

「婆さん、待たせてごめん」

しかし、ギボアーノ安堂は微動だにしない。俺に気づいていないのだろうか。

ギボアーノ婆さん、昨日の俺だよ。まだ名前教えてなかったけど、テツっていうんだ。もしかして寝ちゃったとか?ハハハ・・・」

俺は軽く笑って、婆さんの肩をゆすった。すると、婆さんの体はなんの抵抗も示さずに、前のめりにテーブルに突っ伏した。大きな目が見開かれ、白目をむいている。そして、その背中には深々とナイフが刺さっていた。

ギボアーノ安堂は明らかに死んでいた。22時からの30分の間に何者かによって殺されたのだ。

俺は刺さっているナイフを調べた。果物ナイフだ。不良どものしわざではない。不良は飛び出しナイフを使う。こんなナイフで人を殺すのはいかれた野郎だけだ。逝かれた野郎。ゾンビに間違いない。おそらくは昨日、後をつけられて会話を聞かれたのだろう。そして、今日俺を時間稼ぎのためにハンター街に引き留めておいて、彼女を殺した。俺のせいで婆さんは殺されたのだ。

そうだ、鍵だ。奴らは鍵を奪って逃げたはずだ。だが、ゾンビは基本的にバカだ。カギを奪っていない可能性もある。俺は婆さんの体を調べた。服やテーブルなどにカギは隠されていない。やはりゾンビが奪ったのだ。貸金庫に急がなければ冷凍庫を奪われてしまう。

婆さんごめん!埋葬は後で・・・と思ったが、俺がもし死体の発見者だといっても、そのまま犯人にされてしまうのではないだろうか。彼女とは昨日始めて会ったばかりだし、俺にはなんのアリバイもない。通行人も彼女が殺された瞬間は見てないようだし、どう考えても俺が不利になるだろう。ここで捕まるようなヘマをするのはばからしい。婆さんには悪いが後は警察に処理してもらうしかない。俺はギボアーノ安堂に手を合わせて、心の中で謝った。その時、彼女の口の中に何か光るものが見えた。口を手で開けると、それが鍵であることが分かった。彼女はゾンビに襲われた際に鍵を口の中に隠したのだ。俺は鍵を手に取った。

貸金庫はシプヤの電力館の側にある。あちこちで目を光らせているゾンビに気づかれないように行かなければならない。奴らがすでに貸金庫で待ちかまえている可能性もある。

鍵はこっちが持っているのだから、急ぐ必要はなくなった。俺はしばらく考えたあげくに、真奈芽のマンションに電話をすることにした。ちなみに金に余裕が出てきたので、携帯を契約したのだ。テレビ電話機能が付いた優れものだ。

が出た。電話まで行くのが面倒だから、電話ごと自分の車椅子のところまで飛ばしてきたと言う。俺は、今までの出来事を伝えて協力を要請した。は了解したが、もう夜遅いから貸金庫はやっていないのではないかと言う。それもそうかもしれない。しかたがないので、明日出直すことに決めた。ゾンビが尾行している可能性が高い。建物の中に入って非常階段を使って裏口から出たり、小さな路地に入ってしばらく身を隠してみたりと様々な工夫をして、極めて慎重な方法でマンションにたどり着いた。



「おい、起きろ。よほど疲れていたんだな」

に起こされて、時計を見ると11時だった。

「朝のニュースでやっていたぞ。ギボアーノとかいう占い師の刺殺事件。手がかりはないと言っていたから、お前のことは目撃されてないそうだ」

都会の無関心というやつだろうか。逆に人混みの中だったからこそ、気づかれにくかったのかもしれないが。

真奈芽は仕事に行き、俺とは二人で貸金庫に向かった。もちろん俺が車椅子を押す役だ。

「おい、やばいぞ」

が言う。電力館の隣のビルが封鎖され、パトカーやら警官やらが集まっている。

に頼んで、警官に話しを聞いてもらった。警官の話によると、昨晩未明に業務を終了していた貸金庫ビルが何者かによって襲撃されたという。警備員が殺害され、爆弾によっていくつかの金庫が破壊されたらしい。見ると、ビル自体も爆弾の影響で今にも崩れ落ちそうなほど破壊されている。

「やられた・・・」

俺はうなだれた。やつらは霊凍庫を奪うどころか、強引に破壊する作戦に出たのだ。

だが、霊凍庫が破壊されたと決まったわけではない。

俺は思いきって、警官に聞いてみた。

「この貸金庫に大事な物を預けていたんですが、貸金庫は全部壊れてしまったんですかね」

「いや・・・金庫自体は建物よりも頑丈にできていてね。一部の金庫の扉は破壊されて中の物が盗み出されたみたいだが、多くは無事のようだ」

それを聞いて、俺はポケットの中の鍵を握りしめた。今なら開けられるかもしれない。だが、ビルは閉鎖されていて業務停止中だ。強引に入り込むと怪しまれることは間違いない。

「しばらく様子を見るしかないな」

俺はに話しかけた。

「何言ってんだ。早く霊凍庫のところへ行け」

「そうか・・・って。、無茶言うなよ。今は入れないだろう」

しかし、は不思議そうな表情でこちらを見上げてこう言った。

「どうしたテツ。何独りごと言ってるんだ?」

今早く行けとか言っただろうが・・・。そっちこそ何言ってるんだ。

「じゃ、貸金庫が再開するまで待つしかないな。今日は戻ろう」

俺はそう言って、の車椅子を押し始めた。

「おい、待て。霊凍庫のところへ行け!」

の声ではなかった。俺は周囲を見回したが、誰もいない。

人の声というより、耳のすぐそばで囁かれたような奇妙な感じがしたのだが。

霊凍庫は無事だ。俺が案内する」

間違いなく、誰もいない空間から話しかけられている。

「何キョロキョロしてるんだ?戻るんだろ。とっとと行こうぜ」

が急かす。

「俺は幽霊だ。俺が案内する」

「それを先に言え!」

俺は思わず、叫んでしまった。

すると、今度はが反応する番だ。

「先もクソもあるか。とっとと行くぞ、テツ」

「いや、お前に言ったんじゃない、。こっちに行くぞ」

「おい!そっちは駅の方じゃないだろう」

俺は文句を言うを無視して、車椅子を駅とは反対方向に押し始めた。

「次の道を右だ」

幽霊の声に従って進む。

「次を左」

そして、人気のない路地に入り込んだ。

何者かが待ちかまえていた。

「もしかしてゾンビ?」

定かではないが、ゾンビの雰囲気を持っている。定番の黒コートに帽子と仮面とはやや異なり、カジュアルな服装に身をつつみ、その上にダッフルコートを着て、顔にはサングラスとマスクを着用している。

「ノンノン・・・シプゾンだ。シプヤ生まれのシプゾン。俺のことはシプゾン・ハイドと呼んでくれ」

名前を名乗るということは、上級ゾンビだろうか。語り口も人間並みに自然だし、そうとう知能が使えている様子だ。

「お前が欲しいのはこれだろう?テツ」

シプゾン・ハイドはおよそ20センチ四方の金属製の箱を手に取った。あれが霊凍庫だろう。間違いない。というか、明らかにフタが開いている。全開だ。

「なんで、ゾンビのお前が霊凍庫を?しかも開いていると言うことは、封印されていた霊が出ているということだ。お前を認めない限り、箱は開かないはずなのにおかしいぞ!」

シプゾン・ハイドはため息をついて、首を振った。

「これだから、低能は困る・・・。人間のくせに考えると言うことを知らんのかね」

「なにぃ!」

俺は構えの姿勢をとった。

「誰が戦うって言ったよ。ますます馬鹿だな。こんな人間に協力するのは気がすすまないが、しかたがないな・・・」

協力?ゾンビが俺たちに協力だと?どういうことだ?

「口を呆けたように開けて、知能のない低能ゾンビの脳髄にも劣る思考回路で何かを考えているようだな。まあ、いい。待っていても馬鹿には答えは出せないだろうから、説明してやろう」

腹が立つがしかたがない。俺は黙って聞いてやることにした。

「人間よ。まず、自己紹介をしてやるからよく聞け。俺様は、ゾンビの中でも傑作であると同時に奇跡でもある存在だ。讀獨存美に殺されたらしいが、死体になんの損傷もなかった上に、死んでからすぐに博士によってゾンビとして蘇った。知能のないゾンビは哀れなものになると、半年も動けないらしい。だが、俺はすでに1年も動いている。博士によると、俺くらいの傑作になると無理しなければ5年は動けるそうだ。戦闘を重ねてしまえば5年どころか1年も持たないだろうがね。そこで俺は長く稼働するために、できる限り戦闘を避けて、讀獨存美の元で目立たないように仕事をしてきた。俺様にも立派な邪悪な意識があったが、元々戦闘には不向きな体つきなのだ。無理をしてせっかくの体を壊したくない。

生前の記憶の一部も検索できるようになり、俺はこの体の持ち主が生前ハイドという名前の天才ギタリストであることを知った。天才は天才となって蘇る。俺は、ハイドという男を見習って自由に死のうと思ったんだ。だが、俺はゾンビだ。俺にとって自由など遠い夢であり、幻だ。マスターパペットの下僕として、壊れるまで働くしか道がないんだ」

長いな・・・。だが、何か言うとまた罵倒されそうなので、我慢して聞いていることにする。

「短い稼働時間でもいい。俺は天才ゾンビにふさわしい新たな生き方・・・じゃない死に方といったほうが適切だな。俺らしい死に方を求めていたんだ。俺はゾンビだからギターは弾けない。だが、俺の脳の奥から様々音楽が流れてくるんだ。心を揺さぶるようなフレーズが聞こえてくるんだ。あいつが、ハイドが、脳の中でギターを弾き続けているんだ。俺にはヤツの心は分からない。だが、記憶の海の中であいつのギターだけは生き続けているんだ。俺は獨讀存美の元を逃げ出して、いつか自由に死ぬ機会を伺っていた。そして、昨日だ。霊凍庫の話を聞いた。俺はピンときたね。イタコ・・・幽霊・・・。もしハイド幽霊がずっと側にいたとしたらどうする?ヤツと接触できるまたとないチャンスじゃあないか。

そして、俺と一緒に行動してたゾンビが占い師を殺したよ。ああ、見事な殺し方だった。スマートすぎて俺には真似できないね。あの低能ゾンビは殺しに関してはプロ中のプロだね。そして、そのまま狂ったような勢いで貸金庫を襲ったのさ。爆弾仕掛けて外に逃げ出そうとしたが、俺がヤツと警備員をビルの中に閉じこめた。そしてドカーン。見事なまでにうまくいったよ。開いた金庫の中に、これだ」

シプゾン・ハイドは得意げに霊凍庫を持ち上げて見せた。

「俺は祈った。天才として死にたい。これから何年死ねるか分からないが、俺らしく傑作天才ゾンビらしく死にたいと願ったんだ。するとどうだいベイビー。箱が開いたじゃないか、さすが天才の俺だね。俺に不可能はない。そして、出てきたのが・・・」

「私よ」

女性の声が聞こえたが、どこにも姿は見えない。

幽霊は普通の人間にもゾンビにも見えないわ。声を聞くことができるだけ。でも私の力を使えば、幽霊が人間やゾンビに声以外の影響を及ぼすこともできるわよ。そうね、例えば・・・。テツ、あなたの背後には7人の幽霊が常につきまとっているわ。ここまでの道を案内したのも、そのうちの一人よ。じゃ、道案内をしてくれた幽霊加藤賢治さん。ちょっとそのゾンビの動きを止めてみて」

「ラジャー」

すると、何も目には見えないが、シプゾン・ハイドがもがいている様子だった。

「ぬお。腕がうごかない!やめろ、傑作である俺様の体の自由を奪うのはよせ!」

「ハハハハハ。申し訳ない。霊の加藤賢治です。はじめましてゾンビさん。こうやってゾンビや人間と会話することができるのも、綾尋千里様のおかげです」

「テツ。私はこのゾンビを信用するわ。彼は獨讀存美マスターパペットを倒すのに協力してくれるというの」

こんないけ好かないヤツを仲間に入れろというのか。


「そういうことだ。俺の仲間にしてやるから、テツとそのフレンドも俺の言うことに従え」

俺は言葉が出なかった。しかし、は乗り気だった。

「すげえぜ!なあテツ。天才ゾンビに大勢の幽霊。仲間が増えたなあ!」

俺はため息をついた。まあ、これで勝てるというのなら何も言うまい。

「そろそろ来るわ!シプゾン・ハイド!」

「おお、ようやく来るか!」

綾尋千里の言葉でシプゾンに緊張の色が見えた。一体何が来るというのか。

しばらくして、元気のいい大きな声が聞こえた。

「よおー。呼ばれて来てみれば、なんと俺様の死体と面会できるとはなー。普段じゃこんな移動はできないが、イタコ様の力でここまで来ることができたよ。ありがとう千里さん」

「どういたしましてハイドさん。あなたが成仏できてないことはすぐに分かったわ。そもそもゾンビ族に殺された人達はほとんどが成仏できずに霊となって彷徨っているのよね。ハイドさんに術をかけて、シプゾン・ハイドさんの肉体の側に地縛霊として常に一緒にいるようにしたわよ。これからはお互い会話も交わせるわ」

「すばらしい。天才ゾンビに天才バディの持ち主の霊とは心強いね。よろしくハイド。」

「よろしく。シプゾン・ハイド。俺の肉体を大事にしているようでなによりだ。あと3年は長死にしてくれよな」

「ああ、お前もそのときまで成仏するなよ」

「それはできない約束だ。俺はマスターパペットが死んだ時点で成仏すると決めているんだ。もっとも自分じゃあどうなるか分からないが、多分恨みが消えた時点で成仏してしまうだろうなあ」

「おいおい、自分の肉体の行く末ぐらいは最後まで見届けてやれよ。それとも最後の別れの時が来るのが怖くて、先に逝ってしまおうということか?」

俺とはその奇妙なやり取りに声を出して笑った。千里幽霊達も声だけだったが、笑った。人気のなかった路地が、しばし笑いにちたひとときだった。

しかし笑いの渦の中に、途中からしわがれた聞き覚えのある笑い声が混じり出して、俺は思わず叫んで飛び退いた。

「そんなに驚くんじゃないよ。なんじゃい、人を化け物みたいに驚いたりして」

ギボアーノさん!ギボアーノさんなのね!」

感極まった様子の綾尋千里

「そうじゃよ。わしじゃよ。千里

「会いたかった!」

「わしもじゃよ。千里。これからはゆっくりと話せるねえ」

「ええ。マスターパペットを倒して、私たちが成仏するまでの間にね」

声だけの感動の再会が繰り広げられていたが、俺はただ俯いているしかなかった。

そんな俺にギボアーノ婆さんのほうから話しかけてきた。

「なに元気なくしてんだい。せっかくわしが会いに来てやったんじゃからもっと歓迎せんかい!」

俺は喉が詰まって言葉が出なかった。

「いっちょ前に責任感じてんじゃないよ。お前は賢明に戦って、わしのところへ走ってきた。全部分かっとるよ。お前は何も悪くない。自分のできることをやっただけじゃ。それにわしはもう何も思い残すことはなかったからいいんじゃ。みんなで仲良く成仏することだけが、わしの最後の希望じゃよ。そのためにはテツ。お前が何をするべきかは分かっておるじゃろう?」

「・・・ああ」

なんとかそう答えた時、俺の頬を伝わって落ちるものがあった。

ゲスト



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