嘘ゲー:rushtetsu

 ・番外編(ネタバレ注意)「ワッフル久萬太郎のスーパーリアルクエストイベントガイド」 

 ・0「購入記」   ・1「プレイ初日」  ・2「脱出」  ・3「運び屋」  ・4「リアルファイト」  ・5「戦士CAN-DO」
 ・6「刺客」  ・7「はてなダイアリー」  ・8「リアルプレイヤー」  ・9「チーマー・ゴロウ」  ・10「ミルク刑事」
 ・11「TVニュース」  ・12「CAN-DO来る」  ・13「占い師」  ・14「天才ゾンビ」  ・15「作戦会議」 ・16「ゾンビ100人組手」

2004-05-09

[]-スーパーリアルクエスト- その11「TVニュース」

待ちに待った「美少女天使リアルファイトKOエンジェルズ」が始まる時間だ。

ゲーム内時間で土曜日の夜20時に始まるので、19時半にはもうテレビの前に座って待っている状態である。もっとも、リアルタイムで見逃しても、ビデオ録画を自動的にしていることになっているので、放送済みの回は後からいくらでも見直せるのだが。少しでも早く見たいのがファンの心理というものだ。

ちなみにテレビの横の棚の上には、セティの5分の1フィギュアを飾ってある。

ランちゃん今日は活躍するかなーっ。楽しみだなあ~」

期待に目を輝かせているのは、金田満である。こいつも実はKOエンジェルズのファンだったらしい。もっともそのことは俺がフィギュアなどのグッズを買ってから発覚したことなので、俺が番組に関心を示さなかったら、今後ゲーム内でKOエンジェルズの出番はなかったかも知れないのだ。

ランのファンらしいが、こればかりは趣味を疑う。KOエンジェルズに不細工はいないが、美形揃いのエンジェルズの中ではランはアクセント的な存在というか、ギャグ担当というか、花より団子な食いしんぼキャラでもあり、要するに、はっきり言って明らかに太っている。

俺は車椅子に座った金田をチラリと見た。

金田は、ばくだんいしの攻撃で脳に傷害を負って半身不随になってから、下半身と右半身をほとんど動かすことができなくなった。左手だけで車椅子をこいでいるのだ。しかし変わりにサイキック能力を身につけ、軽いものは動かせるため、身の回りのことはすべて自分でやっているらしい。風呂で溺れても、サイキックで風呂を栓を抜くことができるなら問題ないだろう。

「時刻は19時50分になりました。夜のニュースをお伝えします。今日夕方17時頃、シプヤ美弥升坂にあるコンビニエンスストア、セプンイレプンで爆発がありました。現場にいたミルク白井刑事の証言によりますと、強盗が店員から現金を奪って逃走しようとしたところ、偶然店内にいたミルク刑事が、強盗を取り押さえようとしました。観念した強盗は、体に巻き付けた大量の爆薬に火を点けて、爆発させたということです。この事件による死亡者は強盗犯一名で、負傷者は8名。重傷者はいませんでした。ミルク刑事の証言です」

「どうも、ミルク・シロ・コップことミルク白井です。私が彼を現行犯逮捕しようとしたところ、いきなり自爆されました。店内にはもう一人客がいたのですが、彼は無傷だったためその場を去りました。強盗犯は、顔も全身も隠していたんですが、格闘をした際に被っていた仮面が壊れまして、その顔は・・・なんといいますが、その・・・言い方は悪いんですが、死人のような顔・・・でしょうか。顔全体に酷い怪我の後があり、人相も全く分かりませんで、表情も全くないように見えたのでそう感じたのかもしれません。そんな印象でした。ちなみに片言でしたが日本語を話していました」

「・・・奇妙なことに、強盗の死体を調べたところ、二人分のDNAが見つかり、それぞれ死後一週間以上経っているという鑑定結果が出されました。しかしミルク刑事とコンビニの店員によれば、強盗犯は確実に1名だったということです。シプヤで街頭インタビューをしたところ、帽子と仮面とロングコートという今回の強盗の格好と、同じような服装をした人物の目撃証言が多数寄せられました。それらの目撃証言は、日時も場所もバラバラで、警察ではなんらかの組織が関係しているという見方もあるようです。なお、シプヤの連続飛び降り事件や行方不明事件との関連に関しても捜査をすすめていくということです。以上夜のニュースをお伝えしました」


KOエンジェルズが始まった。第7話の今日はポッチャー欄をフューチャリングした内容らしい。女相撲部の練習風景から始まり、いつものように宇宙人の来襲。エンジェルズ達が集まり、変身して戦い、今日戦闘で活躍するのが、ランのようである。

「うおーっ!ランちゃん萌えー!」

金田が吠える。俺も、熱い戦いに夢中になっていた。

ちなみに、TV番組に出てくる人物も背景も全てゲーム内と同じフルポリゴンで構成されている。KOエンジェルズのメンバーの顔などは非常に凝っていて、パッと見本物の人間のように見えるくらいである。それにポリゴン描写になれてくると、次第に違和感は薄れていき、それが自然で当たり前の現実のように受け止められるようになってくるから不思議だ。モーションキャプチャーなどを駆使して作られているのだと思うが、セティの顔などは誰かをモデルにして作られているのだろうか。あるいは現実のアイドルをそっくりそのまま再現しようとしている可能性もある。俺の知らない若いアイドルはいくらでもいるから、セティそっくりな人間が存在していてもおかしくはない。

KOエンジェルズのメンバーは、5人とも武道は万能で総合格闘技の一流ファイターだが、それぞれ違う部活に所属しているために、最も得意とする分野はバラバラである。

セブンティーンセティ)は空手メルシー・ボクトゥメル)は剣道スマック洋子ヨーコ)は柔道。ポッチャー欄ラン)は女相撲。戸橋谷弓子(とばしやゆみこ=ユミ)は弓道。

最初は、学内で起こる様々な事件や紛争、喧嘩などの解決や仲裁役として活躍していたが、今は方向性が変わって、格闘好きな宇宙人とバトルするという展開になっている。宇宙人には多様な身体的特徴を持ったタイプが存在するために、スポーツ界全般において、人間と競い合ったり、大会に参加したりすることを認められていない。宇宙人達の間では、格闘技がブームであり、人間と戦ってその腕を確かめたい宇宙人が、格闘技のエキスパートであるKOエンジェルズに戦いを挑んでくるというわけである。

「今回の宇宙人はまたへんちくりんなやつだなあー」

金田の言うとおり、毎回宇宙人は個性的なやつばかりが出てくるが、今回もインパクトのあるやつである。首が3本あって、手が8本。しかし足は2本で人間のように立って歩いている。手が多いぶん、格闘には有利かもしれないぞ。

「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」

奇妙な叫び声と共に、パンチが繰り出される。8本同時に繰り出されたのでは避けようがない。それを食らったメンバーは後ろにはじきとばされた。勇敢に立ち向かったセティでさえ、あっさりと吹っ飛んでしまった。

「私にまかせて!」

ポッチャー欄の声だ。

ラン!どうするつもり!」

ヨーコは心配そうだ。

ランは、相撲のしきりのように前に両手をつくと、宇宙人に向かって突進した。

その勢いは、宇宙人のパンチでも止めることはできず、ついにはランが宇宙人の懐に入って、押し出しを始めた。

後ろの大樹に衝突!宇宙人はヤケクソ気味に左右からパンチを繰り出すが、体を締め付けられているためにそれほどの威力はない。しかし、ランの体が赤く腫れ上がり始めるほどの威力である。

ユミ!今よ!」

ユミが狙いを定めて弓を引いた。

「弓術必殺技!遠的仁の道!」

連続して放った3本の矢が、3つの頭の額に見事に的中した。

「マイッタァァァーーーー!」

宇宙人は爆発して消えた。死んだわけでない。KOエンジェルズ達の必殺技は、相手を殺すためのものではなく、相手に負けを認めさせるためのものである。必殺技をくらった相手は、負けを認めたことでその場から消滅し、死力を尽くして戦ったという足感とともに、見慣れたベッドの上で目を覚ますのだ。

「いやー。良かったなあー!なあ、テツ!」

金田は大足の様子である。俺としては、今回はセティの活躍がほとんどなかったので少々物足りなかったが、まあ次回に期待するとしよう。

ピンポーン

ベルが鳴った。

「俺が出る」

ミルク刑事かもしれない。俺はすかさず立ち上がった。

真奈芽は今日は出かけていて遅くなるらしいので、真奈芽ではないだろう。

2004-05-05

[]-スーパーリアルクエスト- その10「ミルク刑事

ゾンビは幽霊を怖がる。

この情報を元に、俺はシプヤ中を歩き回った。ちなみにレベル7である。

色々なところを歩き回っている間に、不良や弱いゾンビから絡まれることがある。逃げずにリアルファイトで倒しているうちに自然にレベルは上がっていった。幽霊情報とは別に、強い仲間もスカウトしたい。

倒したチーマーに、強い奴の情報を尋ねると、シプヤにあるキックボクシングジムに行けば、強い格闘家はいるだろうという話だった。

「キックボクシングジムがあるな」

俺は薄汚れたビルを見上げた。3階の窓から中で何人かが稽古をしているのが見える。

「見学かい?」

足を踏み入れた俺に、インストラクターのような印象の男が近づいてきた。

「えーと、その・・・強い人を探しに・・・」

「ここには強いやつはいっぱいいるよ。まあ一番強いやつはちょうどさっき出て行ったばかりだから、タイミング悪かったね。」

「そいつの名前は?」

インストラクターはやや怪訝な表情になった。

「君、ミルク刑事のファン?まあ、前大会で優勝したからねえ」

「ええ、そのミルク選手のファンなんですよ。前の大会でファンになりました。彼のサイン貰おうかなと思って」

「出て行ったばかりだから、まだ会えるかもよ。美弥升坂の方角に行ってると思うよ」

俺は一礼すると、美弥升坂へ走った。

人混みの中から首一つ飛び出た後ろ姿を発見した。185はあるだろう。スポーツバッグを肩から提げている。俺はそーっと近づいていった。

男はセプンイレプンに入っていった。俺も続いて入店する。

男は真っ直ぐに飲み物コーナーに向かうと、1リットルの牛乳を手にとってすぐにレジに向かった。俺は雑誌コーナーで、「バニラ」を手に取った。開くと、ちょうどセティの写真が掲載されたページだった。

男は、コンビニを出たところで牛乳の一気飲みを始めた。ゴキュゴキュという音が聞こえてきそうな勢いだ。

そんな中、一見して明らかに怪しい客がスッと入店してきたかと思うと、店員に銃口を向けて濁って嗄れた聞き取りにくい声で命令していた。

「金・・・出セ。早く・・・シロ」

そいつの後ろ姿は、黒いコート姿に黒い帽子をかぶり、中肉中背。これで仮面を被っていたらこいつは・・・。

と思っていると、そいつが店内をすばやく見回した。

ゾンビか・・・」

俺は興味がないフリをして、雑誌に目を落としていることにした。ゾンビ族が、上からの命令(殆どのゾンビ族には上が何者なのかを知らないが)で、様々な手を使って資金を稼いでいるのは知っている。業務内容も真っ当に経営している店も存在するが、多くの店舗はあくどいことをやって荒稼ぎしていると聞く。もちろん露骨な犯罪行為も行っているが、夜に目立たない程度にやる程度だろう。ぼったくり、飲み屋、用心棒、殺し屋、架空請求、ひったくり、スリ、など噂を聞いたことがある悪事だけでもいとまがない。まともなところでは、スタントマンで稼ごうとしたゾンビもいたというが、これは本人が死んでしまい金は受け取れなかったという話だ。火で全身を覆われた状態で数十秒耐えるという仕事だったが、消化が間に合わず脳髄まで火あぶりになってしまったらしい。もっとも仕事内容のおかげで、彼の正体はバレなかったらしいが。

それにしても、堂々と強盗をやるとは・・・。よほど厳しい資金ノルマが課せられているのだろう。ゾンビも楽じゃない。短い間だったが仲間だったこともあるので、下っ端ゾンビの辛さは全く分からないわけではない。下っ端ゾンビの多くは人間のレベルの知能を有しておらず、たとえ有していたとしても、その知能レベルは素材となった脳髄の状態に大きく左右される。分かっていることは、記憶が残っていたとしても一度死んだ人間の人格が再現されることは絶対にないということだ。彼らゾンビ族は、全く新しい邪悪な気質を持った存在として作り出される。生前の記憶に行動が左右されることはあるが、生前の人格は完全に失われており、魂のない肉体にそれが復活することはあり得ないらしい。


「早く・・・シろ!殺す・・・ゾ!」

レジから金をかき集めた店員が、ゾンビが手にした袋に金を入れた。

そそくさと店を出て行くゾンビ

だが、自動ドアで開いているはずのドアにぶち当たり、店内に転倒しながら戻ってきた。

まだ牛乳を片手に持ったまま、入り口に立ちはだかる男がいる。

「刑事だ。現行犯でお前を逮捕する」

牛乳を飲み干して、パックを投げ捨てると、懐から警察手帳を取り出した。

「あヒャ!そこ・・・ドケ!オレ・・・逃げる!」

「抵抗するなら・・・」

脇をすり抜けようとするゾンビに、刑事は素早い左の膝蹴りを放った。

それはゾンビの脇腹に突き刺ささり、ゾンビはまた後ろに転がった。

「苦しまないとは・・・よほど腹が頑丈な奴か」

落ち着き払った様子で、ゾンビのほうに歩み寄る刑事。

ゾンビはすぐに立ち上がり、攻撃を繰り出してきた。

ゾンビパッ・・・オゴシェッ!」

ゾンビのパンチが届くよりずっと速く、刑事のストレートがゾンビの仮面を派手に打ち砕いた。中の顔が露わになる。なんとも形容しがたい、潰れて目も鼻もまともに認識できないくらい破壊された顔だ。

それを見て、刑事は一瞬怯んだ。

「過去に辛いことがあったのかもしれないが、強盗をしていい理由にはならないぞ」

どうやらこの刑事はゾンビの存在を知らないようだ。

「ソレ以上・・・近づく・・・自爆・・・スる」

ゾンビがコートを広げると、体に大量の爆薬が巻かれていた。店員が悲鳴を上げて一目散に店を飛び出して行った。俺も成り行きを見つつも、いつでも逃げられるように入り口付近に立っていた。

「お、おい!早まるな!たかが強盗で死ぬことはないだろう。考え直そうよ、な。人生まだやり直せる・・・」

刑事はそう言いながらもジリジリと後ずさっていた。

「イヤ・・・今決めタ・・・お前・・・道連れ」

言葉にならない叫びをあげながら、刑事が俺の方にスッ飛んでくる。

「邪魔だどけッ!」

刑事は俺に思い切りタックルし、共にコンビニの外に転がり出た。

その瞬間、耳をつんざくような爆発音がして、コンビニのあらゆるガラスというガラスが凶器となって歩道にいた人々を襲った。俺は運良く、刑事の下敷きになっていたので完全に無傷のようだった。

盾である刑事から這い出て辺りを見回すと、コンビニは建物自体はそこにあったが、中は壊滅状態になっていた。爆風と窓ガラスで負傷した人が、何人か路上にうずくまっている。

刑事がヨロヨロと体を起こした。ロングコートにガラスが大量に突き刺さっているが、体にまでは達しなかったようだ。爆発と同時に後頭部で手をクロスさせていたので、頭部も無傷に見える。

「くそー。あいつ死んでしまったのか・・・。飛び降り自殺といい、最近おかしいぞ・・・」

俺は、ぼやく刑事の肩をそっと叩いた。

「あいつはゾンビですよ。元から死んでいたんです。ミルク刑事

刑事は怪しい者を見る目で俺を見た。

「なんで俺の名前を知っている。お前は誰だ」

「はじめまして、テツと言います。あなたと同じように、東京の悪と戦う者です。でも警察じゃありません、強いて言えば「戦士」ですかね」

「怪しい奴だな。ともあれ、お前も事件の重要参考人として署までついてきてもらおうか」

それはまずい。別にやましいところはないが、ミルク刑事ゾンビの存在を知らないくらいだから、署でそんな話をしたら事態は悪い方に進むだけだろう。

「強い人間を探しているんです。共にゾンビと戦うための」

俺はメモ帳金田真奈芽のマンションの電話番号を書いて渡した。

「私は夜はここに居ます。電話してください」

それだけ伝えると、俺は日が落ちかけた夕暮れの街に姿をくらませた。

2004-05-04

[]-スーパーリアルクエスト- その9「チーマー・ゴロウ」

ガン飛ばし、カツ上げ・・・レベル5の俺にはもはや全く効かない。

だが、チーマーのガン飛ばしにわざを動きを止めて、効いたフリをした。

「ゴロウさん、こいつですよ。俺のダチをやったやつは」

「あんだぁ~?ゴロウさん、こ~いつビビってやすぜぃ。ケチョンケチョンにしてやりましょう」

しかし、ゴロウと呼ばれた男は黙って俺の様子をうかがっていた。身長は190cmはあるだろうか、ダボダボの服を着ているが、その下に筋肉の付いた肉体が隠されていることは容易に想像ができる。

「ここじゃ、場所が悪い。人気のないところへいくぞ」

俺は、10人近くいるチーマーに囲まれて地下鉄への階段を下りていった。

一人では地下鉄の階段に侵入できなかったので、助かる。しかし、まだ5人程度のチーマーしか倒していない俺に、チンピラとはいえ10人同時に相手にできるだろうか。

「誰かに駅員を呼ばれるかもしれねえ。早めにやるぞ」

ポケットに手を入れたままつぶやくようにそう言うと、ゴロウは顎を動かした。

それが戦闘開始の合図のようだった。

丸腰の俺に、総勢9名のチーマーが襲いかかってくる。

俺は行き止まりを背にしているので、囲まれる心配はない。フットワークで奴らの打撃をかわす。やつらも後ろの壁に手足をぶつけるのを恐れてか、威力のある打撃は出してこない。

「ぎゃああっ。いてえええええ」

一人の回し蹴りが俺の腰に命中した。だが悲鳴をあげているのは蹴った本人だ。

上着の下に隠した鉄パイプに、奴のすねがモロに当たったのだ。俺は、数時間前に倒したチーマー連中から奪った鉄パイプを取り出して構えた。

「こ、こいつ武器持ってやがるぞ!」

チーマー達はいったん俺から離れると、各々の武器を取り出した。どうやらナイフがメインのようだ。

「ガン飛ばし!」

すさまじい形相で連中を睨めると、そのおよそ半数の動きが止まった。

今がチャンスだ。

「鉄棒遊戯・激闘10廻転!」

目にも止まらぬ速さで、鉄パイプをブン回す。ガン飛ばしで怯んで動きを止めていた奴らがひとたまりもなく吹っ飛んだ。残ったのは5人。それも、位置はかなりバラけている。

「鉄棒遊戯・脳天直撃!」

一人目。

「鉄棒遊戯・金的衝上!」

二人目。

「鉄棒遊戯・顎砕突!」

三人目。

「鉄棒遊戯・鳩尾突!」

四人目。

五人目は背を向けて逃げようとしている。

「鉄棒遊戯・後頭部ドリル!」

鉄パイプと一緒に、体ごとドリルのように回転させながら、一直線に相手に突進する技だ。

後頭部に見事命中し、そいつは一瞬にして意識を失い、そのままゴロウの足元まで吹っ飛んでいった。

俺は起きあがろうとする残りの四人に、起き上がる前にとどめをさした。

「やるじゃねえか・・・。それだけの不良技を身につけているとはな。」

ゴロウは、武器を取り出した。鉄球だ。こんな体格をしたやつにこんなものを振り回されてはたまったものではない。当たったら一撃でやられるだろう。

唸りを上げて鉄球が回転を始める。横から来ると思って上下に避けるフットワークをしていたが、その予想は裏切られた。いきなり廻っていた鉄球が直線的にこっちに飛んできたのだ。

俺はかろうじて、右に避けた。それは予想以上に伸びて、背後の壁を破壊した。

この隙を逃す手はない。こっちはスピードで勝負だ。鉄パイプと共に奴の懐に飛び込んだ。

「鉄棒遊戯・顎砕突!」

しかし、奴は左手でそれを振り払った。バカな。やつの服が破れ、手を覆った鉄製のレガースが露わになる。なるほど、全身を防具で覆っているというわけか。

「不良(ヤンキー)技の最高峰で逝かせてやる。鉄球奥義・魔球弾!」

今度はひとつではない。五つほどの鉄球が飛んできて、避ける隙間がない。本物はひとつだけに違いない。俺はカマをかけて、右側に飛んだ。二つの鉄球が俺の体をすり抜けた。どうやら正解だったようだ。

「まぐれは続かんぞ。それっ!鉄球奥義・魔球弾!」

今度は下に滑り込むように避ける。仰向けになった俺の鼻をスレスレに鉄球が飛んでいく。

続けざまに、鉄球が振下ろされる。俺は転がりながらその攻撃を避けた。地面が破壊されていく。

転がりながら俺は少しずつ相手との距離を縮めていき、ある程度まで近づいたところで跳ね起きた。この距離では近すぎて、鉄球を飛ばすことはできないだろう。

ゴロウは、チェーンを短く持って、鉄球を拳代わりにブン回した。こんな遅い拳は誰だって避けられる、鉄球の勢いに体を持って行かれてバランスを崩したゴロウの背後にまわり込む。

ゾンビ技・背面腐臭羽交締!」

鉄パイプバージョンだ。鉄パイプで相手の喉を強烈に締め上げながら、足を相手の胴体に絡ませる。こいつが落ちるのは時間の問題だ。

「参った・・・。情報を教えるから助けてくれ・・・」

俺は相手が話せる程度まで、力を緩めた。

「価値のある情報ならな」

ゾンビ技が使えるとはな・・・。俺は小遣い稼ぎにあいつらに協力したことがある。巷で話題になっている飛び降り事件があるだろう。あれはゾンビ達が殺しているんだ」

「そんなことはもう知っているよ」

「ま、待ってくれ・・・。ゾンビ族シプヤを拠点に東京に勢力を広げていることはまだ世間的には知られていない。それに関して情報を得たり、疑問を持った奴らがアクションを起こす前に呼び出して、殺しているんだ。俺はその情報収集や、呼び出し係をやっていたんだ」

「情報というのはそれだけか?」

俺は鉄パイプを握る腕に力を入れた。

「ま、まだ・・・ある・・・。ゾンビ族は操られているだけの兵士のような存在で、裏に強大な存在がいるらしい。人間ではないという噂もあるけど、俺はそこまでは知らない・・・それから・・・」

「それから?」

ゾンビ族は人間の死体から作られた存在で、そのパーツになった人間は当然死んでいる。死体から取り出された脳髄や脊髄が奴らの新たな命ともいえるものだが、その本来の持ち主である人間は死んでいるわけで・・・」

「要点を言え!」

廻りに人だかりができており、今にも駅員が来そうな雰囲気だ。

「ゆう・・・れい・・・。ゾンビ・・・怖がる・・・」

「おい!何をしている!」

しまった。駅員がきた。一刻の猶予もない。俺はゴロウを駅員に向けて押した。

駅員はゴロウの下敷きになってもがいている。

その隙に、階段を駆け上がり、雑踏の中に紛れ込むことに成功した。

2004-05-02

[]-スーパーリアルクエスト- その7「はてなダイアリー

実は未だにセーブの方法が分からない。ゲームオーバーになってないからいいようなものの、このままでは不安がつのるばかりだ。

俺は、金田真奈芽の自宅内をくまなく調べた。平日の昼間に真奈芽が会社に行っている間に、真奈芽の部屋もくまなく調べた。

居間の電話の下に、電話帳があるのに気づいて開いてみた。

「あ」から順番に見ていく・・・。

「は」。はてな株式会社はてなというのがある。

はてなダイアリーというのを知っているか?」と金田が言っていたのを思い出した。電話してみることにした。どうやらシプヤに会社があるらしい。

「はい、株式会社はてなのコンドウです」

「こんにちは、はてなダイアリーというものについて聞きたいのですが」

「はい。はてなダイアリーはWEB上の当サイトで登録していただければ、無料でご利用頂ける日記のサービスです」

「記録がつけられるということですね?」

「はい、そうです」

「つまり、セーブができるということですよね」

「はい、記録をセーブということもできると思います」

俺はURLを聞いて、電話を切った。すぐに真奈芽のパソコンに向かう。

壁紙はジャミーズとかいう男性アイドル集団のものだ。

URLを入力、登録を済ませ、さっそく日記を付けた。

「ふう、セーブ完了」

俺は安心感とともに、PCの電源を切った。

さて、獨讀存美から逃げたはいいものの、次に具体的にどういった行動に出るかはまったく決まっていない。俺はとりあえず今使える技を強化することと、基礎体力を上げてレベル上げを目指すことにした。

まずは腕立て伏せと腹筋をそれぞれ30回、スクワットを100回。それから習得したゾンビ族の技の鍛錬だ。

ゾンビパンチ!ゾンッゾンッゾーン!ゾンッゾンッゾーン!」

技を出せば出すほど、キレがよくなっていく気がする。

ゾーンディフェンス!」

防御も大切だ。攻撃からスムーズに防御の姿勢に移行できなければならない。

この構えは、ボクシングの防御の姿勢によく似ている。頭部やボディへの打撃を防ぐ最も有効な防御姿勢だ。

腐り手落とし!」

手刀を鋭く振り落とす。

腐臭羽交締(ふゅしゅうはがいじめ!)」

正面から相手に突進し、相手に抱きついてさばおりをする。力が弱いゾンビ族でも、強烈な腐臭で相手をノックダウンすることも可能だ。俺がやる場合は、相手の動きを止めることが第一目的になるだろう。

ゾンビ族は基本的に武器や防具を使用しない。させてもらえないだけかもしれないが、このことは、ゾンビ族の技が肉体技が中心であることと関係している。

肉を切らせて骨を断つ。

ゾンビ族から学んだことだ。俺の場合は、強度のある防具を身につけて始めて、ゾンビ技の真価を発揮させることができるだろう。

「セイヤーッ!屍ローリングサンダー!」

HPの減りが早い。もうリアルゴールデンはとっくの昔に使い尽くしている。

HPが20を切った時点で、俺は冷蔵庫を覗いて食えそうなものを物色することにした。

「ふむ・・・。色々あるな。あ、生卵があるな」

生卵を3つ割って、一気飲みする。

HPが30回復した。まずまずだ。しかしこれはHPよりもESPの回復に効果がありそうな気がする。HPの回復はやはり即効性のあるドリンク系が効果的だ。俺はダイエットペプシを一気飲みした。HPは全快。リアルゴールデンには劣るか。

「あー、疲れたー。まだ夕方だけど寝るか」

俺はゴロリとソファに横たわり、テレビを点けた。

元気一杯の主題歌が流れ、特撮モノの番組が始まる。

俺は新聞のテレビ欄をチェックした。『美少女天使リアルファイトKOエンジェルズ』とある。ケーオーではなく、ノックアウトエンジェルズというふりがなが振ってある。

ミニスカートをひるがえして、見せパンツを惜しげもなくさらしている。俺は思わず夢中になって見入ってしまった。

リアルファイトでノックアウトよ!セブンティーン股技顔挟絞殺!」

おおっ!どこかの格闘ゲームで見たことがあるような技だが、これは強烈な技だ。相手の顔面を両足で挟みつけて、首を絞めて落とす。あるいは力があれば首の骨を折れるかもしれない。

このセブンティーン(愛称はセティ)という娘が一番カワイイなあ。どうやら名前のとおり17歳らしい。

番組の最後にセブンティーンを始め、KOエンジェルズ5人のフィギュアの通信販売の広告をやっていた。

俺は立ち上がり、また真奈芽のPCを立ち上げた。

http://www.ko~angels.com/

ふむ。セティの5分の1フィギュアは25000R.か。

死体運びで稼いだ金が15万残っている。先日の生ける屍乱入時の修理代を引いて残った額だ。現状で、装備品やアイテムが皆無なので、余裕があるのかどうか分からないが、フィギュアを買う金はあるだろう。

「ポチっとな」

この住所宛に料金着払いで購入。

将来レアアイテムになるかもしれん。俺はゲーム内でのアイテム収集には結構こだわるほうなのだ。買えるものは買える時に買って、大事にとっておくことが大切だ。

ついでに、セブンティーン役をしているアイドル女優のことも調べた。名前は星光奈々子(ほしひかりななこ)といい、現役の女子高生。ティーンズモデルというカテゴリに属するアイドルで、バニラという十代向けのファッション雑誌専属のモデルらしい。ゲーム内にもGoogleがあり、星光奈々子でググると少ないながらも、商品が出てきた。俺は買えるモノは全部注文しておいた。

「ムフフ・・・これで明後日には、フィギュアと写真集とポスターとDVDが届くぞ」

ついでに無料のメールアドレスを取得しておいた。今後、情報収集に活用できるかもしれない。

そうするうちに、金田満が帰ってきた。情報収集をするといっていたがどこへ行っていたのだろう。車椅子の単独行動だからそう遠出ができるとも思えないが。

夕飯時になって金田真奈芽が帰ってきた。今日は平穏無事に一日が終わりそうだ。


[]-スーパーリアルクエスト- その8「リアルプレイヤー」

昼は外に出て、情報収集に努めたが、誰に話しかけても何の進展もなかった。

ヒューマン科学研究所に行ったら、ビルの入り口付近にすでにゾンビ達が立っていて近づけないし、ただ闇雲に歩き回っているだけでは、殺人現場にも巡り合えない。俺が部下をやらされていた時に拠点となっていたホテルビゾンシプヤにも行ってみた。名前から想像がつくと思うが、ラブホテルだ。実質上の経営はゾンビ族が行っている。大通りから小さな路地に入り、人通りの少ない路地をしばらく歩くと、「休憩5000R. 宿泊8000R.~」という看板が見えてくる。やはり警備が厳しいようだ。ビルの入り口に周囲を警戒している様子のゾンビが3人いる。思いきって近づいていったら気づかれて追いかけられた。追跡を振り切って、なんとか人混みに逃げ込んだ。一人で乗り込んでいって勝てる状況ではない。

夕方からは、空き地で技を鍛えた。腕立て伏せをしている最中に、ファンファーレが鳴り響き、レベルが4になったことが分かった。

このまま何日もかけてコツコツと鍛錬によってレベルを上げて行くやり方でいいのだろうか、これではいつになったら獨讀存美を倒せるのか分かったものではない。

首を傾げながら、マンションに戻り(合い鍵は貰ってある)、一息ついていると荷物が来た。

フィギュアとその他色々だ。

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!

それらのアイテムは「だいじなアイテム」欄で確認できた。

俺は時間をかけてはてなダイアリーを書いた。ゲーム機にはキーボードも付けられるので、いざ長文を打ちたい時に役に立つ。ポリゴンの俺がPCに向かって、現実世界と同じようなノリで日記を書いている。不思議な感じもするが、ゲーム内でPCに向かっている主人公である俺と、現実世界でテレビ画面に向かってキーボードを叩いている俺というのは、こういう場面においては100%同一人物なのだ。戦ったり、会話したりしている主人公には感情移入はしているものの、必ずしも俺ではない。しかし自由に長文を書いている主人公なら、まさしく俺以外の何者でもない。そこには一切の制限も干渉もない。ネットゲームでチャットをしている時の感覚と同じだ。

セブンティーンのフィギュアはパンティまでよく出来ている・・・」と。

細かいことまで記録を付ける俺。

「テツさん!メールがきたよ!」

星光奈々子、もといセティの声。メーラーにセティの声を設定しておいたのだ。

誰にもメールを出してないのに、メールが来た。ゲームも行き詰まっている。これはゲームの進行に関係のあるイベント関係に違いない。


From: フロウ <flow@real.co.jp>

件名:はじめまして

テツさん。はじめまして。

はてなダイアリーであなたの日記を見ました。僕はプレイヤーのフロウと言います。

あなたの日記を見つけるまでは、このゲームがネット対応だってことを知らなかったけど、僕はネットに接続してるから不思議ではないことでした。

あなたはレベルが4で、獨讀存美とかいうモンスターを倒す手前でつまづいているということですよね。実は僕も詰まってるんです。もう長いこと街を歩いてるんだけど、先に進めません。ちなみに戦闘でレベルを上げるポイントを知っていますよ。自己鍛錬でもレベルは上がるけど、戦闘のほうが早いですよ。ともあれ、返事待ってます。これ読んだらすぐに返事くれるとありがたいです。しばらく待ってみます。

俺は驚きのあまり、テレビ画面の前でしばらく固まっていた。・・・言われてみれば、一応ネットに常時接続させているから、ネットに対応していればプレイヤー同士の交流があってもおかしくはない。プレイヤーが協力しあうことで、道が開けるのがネットゲームというものだ。このフロウとかいうやつは色々情報を知っている様子だ。現時点ではこいつがプレイヤーであるという確証はない。ゲーム内のイベントの一環である可能性もある。だが、俺が返事を書いて、その内容に応じた返事が来たらフロウは間違いなくプレイヤーだということになる。俺はものすごい勢いで返事を書いた。

フロウさん。メールありがとうございます。

私もネット対応だということに驚いています。ただ疑うつもりではないんですが、プレイヤーであるという証明になるようなことを書いて貰えませんか。最近現実世界で起こった社会的出来事とか。例えば、ミルコがまさかのKO負けをした、とか。

現実の時間で待ち合わせをしませんか、あるいは文章でしかやり取りができないという可能性も考えられますよね。実際に会えれば色々協力できそうですし。もっともチャット機能があるのかどうかすら分かりませんが。時間はそちらの都合をお教えください。

送信してから30分待った。長い30分だった。

「テツさん!メールがきたよ!」

From: フロウ <flow@real.co.jp>

件名:会う件について

返事ありがとうございます。安心しました。

驚くのも無理はありませんね。最近あったことですか。そうですねー。ミルコのKO負け、いい例ですね。これだけでも僕のほうの証明になってると思うけど、システム側のコピペかもしれないと思われちゃうかな?じゃあ、今は2004年5月1日夜の11時35分。・・・って時間の取得なんていくらでもできちゃいますね。はてなダイアリーを読ませたいところだけど、僕はプライベートモードにしてるんですよね。あ、そうだ!間違いないのがひとつありました。イラクで人質になった3人のうちの2人が記者会見を行いましたよ。これ以上ないという時事ネタでしょう。

さて、待ち合わせの件なんですが、実は私は明日から旅行に行くんで、しばらくプレイできないのです。ちょっとした情報だけ教えておきます。私はレベル12なんですが、センター街・・・じゃないや、ハンター街ってありますよね。あの通りをブラブラ歩いてると結構な確率で悪い人間が絡んできます。そこで喧嘩を買うんです。モンスターじゃないですよ。ここでモンスターはいたとしても襲いかかってきたことはないです。レベル4だとチーマーには勝てるでしょう。他にはギャング、暴走族、暴力団といます。暴力団に絡まれたら今はまだ逃げたほうがいいでしょう。もう背後にモンスターがついている可能性もありますからね。僕はこの通りだけでレベル7まで上げましたよ。実は他にも戦闘できる場所はあります。電車使えるようになってるなら、使うといいですよ。じゃ、明日の準備もあるんでしばらくの間失礼します。グッドラック!

フロウがプレイヤーであることは分かった。

会えないのは残念だ。でも安易に人に頼ってしまっては面白くなくなるだろうから、これでよかったのかも知れない。彼はコツコツとレベル12まで上げたのだ。俺はレベル4でもう弱音を吐いている。ゲーマー失格だ。気合いを入れ直して頑張ろう。

2004-05-01

[]-スーパーリアルクエスト- その6「刺客」

寝苦しい夜だった。

ベッドの上で寝る記憶・・・。白い天井が記憶に新しいあの病室以来だ。

自分の部屋のベッドで寝た記憶は封印されたままである。

ここは金田真奈芽の家だ。1LDKの賃貸マンションで、去年から一人暮らしをしているらしい。彼女は普通のOLだが、金を貯めて頭金はなんとか払えたらしい。ボロアパートで暮らしていたという金田満は、都内の小綺麗なマンションに目を丸くしていた。車椅子生活になってからは、しばらくはここで世話になることにしたらしい。金田も仲間として戦うのであれば、真奈芽の存在は不可欠だろう。彼女が車椅子を操り、金田の行動をサポートしてはじめて戦闘要員たりうるのではないだろうか。

2週間ずっと、硬いコンクリート床に毛布を敷いて寝ていた俺にとって、スプリングの効いた柔らかいベッドは天国のはずなのだが、いざ眠るとなると、なかなか寝付けないのだ。

ゴロゴロと寝返りを打ち続けていると・・・。

窓のカーテンの向こう側に、人の形をした影が浮かび上がっていた。

そいつは手をめいっぱい広げて、窓の枠ににしがみつくようにしている。

カーテンの隙間からのぞく凶悪な視線と俺の視線がぶつかった。

「あッ!」

と叫んで飛び上がると、ヤツは思い切り窓をぶち割って、中に飛び込んできた。

「ウキャキャキャキョオオオーーーッ!」

正気を失った横顔が、月の光の中に浮かび上がる。

「むぅうっ!もうこの場所をかぎつけるとは!獨讀存美の仲間だな!」

「ソウともヨ!一度仲間になっておきなガラ、ヨクもうらぎっタナ!」

「貴様・・・。ゾンビか?」

俺は金田達が気づいて飛んでくるまで、戦闘を引き延ばそうとできる限る会話を試みることにした。

「ウシャシャシャシャー。オレはシプヤゾンビでもハチホンギゾンビでもないぞぉ~。ましてや腐りきった死体でもなければ腐りはじめた死体でもナイ。かといってマミーでもなければ包帯男でもないぞぉ~~~。さぁ~て、あててミナ~ヨゥ?ウヒィッ」

「うーむ。そうか、ゾンビじゃないのか。見かけはそっくりなんだけどなー。あー、でもむしろ見かけはマミーか?いや、マミーを見たことはないんだけど、マミーって包帯に包まれてるって印象だし。お前も包帯だらけだしなあ」

「バーカ。よーく見ろヨ。包帯はオレの体の40%程度しか包んでいないゼ。ゾンビとかマミーとかいうヨリむしろ腐りきった死体に似てるだロ?さ~て、そろそろわっかるカナ?ホヒェッ」

「うーーーむ。・・・あっ、お前、そんなこといって、実は腐りきった死体なんだろ?オレをだまそうったってそうはいかないぞ?」

「バッカヤロウ!オレがオマエをだまして何になる!ゾンビ族ウソつかない!一度死んだ身だ。いまさらウソなんてつかねーヨ!」

まくしたてた勢いで、モンスターの眼球が飛び出した。ヤツはあわててそれを眼窩に押し込んだ。

「オットット。これでも一応視力はあるんダ。ちゃんとハイッテないと見づらいったらありゃしない」

「うーん、死体かー。死体・・・屍・・・」

「アッ・・・。オシイ!近づいてキタ!」

生ける屍だろ」

俺の声ではなかった。部屋の入り口に車椅子に乗った金田がいた。もちろん車椅子を押しているのは妹である。

「セイカイーーーッ!!!ってイウカ、お前いつの間に仲間をよびやがった!」

「どうでもいいけど、臭いから早く出て行ってくれないかしら」

「アッ!クサイだと!俺が一番気にしてることヲ!」

よくしゃべる屍だ。俺は戦闘の構えに入った。

「テツ!気をつけろよ!生ける屍は腐りきった死体より強いモンスターだ!」

「屍カカト落とし!」

生ける屍の足が振り上げられたかと思うと、俺の肩にカカトが直撃した。

「くせぇっ!」

強烈な腐臭が俺を襲う。俺は吐きそうになった。

「チッ。外したかッ。もうイッチョ!セイッ!」

こいつは死ぬ前は空手家だったのか?するどい蹴りだ。狭い部屋では避けることすらままならない。次の一撃は俺の顔面に直撃した。ヤツの腐った体の一部が俺の顔面に付着する。

「体が破壊されることはワレラにとって恐怖ではないノダ。脳さえ生きていれば、またマーモット博士に体を付けて貰えるからナ」

そう言って、今度は素早いパンチを繰り出し始めた。

「ワンツーワンツー。ゾンッ!ゾンッ!」

本場のゾンビパンチだ。俺のとはキレが違う。

やつのゾンビパンチは徐々に俺の顔面にヒットしはじめた。真奈芽が「右っ!左っ!」とか言ってるが、んな言葉はこのパンチのスピードの前には意味がない。

「ビーーーッ!」

俺の頬が切れて鮮血が吹き出した。

強烈なストレートだ。

「いくゾ!ゾンビ百烈パンチ!ゾンゾンゾンゾンゾンゾンゾンゾンゾン!」

目にもとまらぬジャブを避けるのが精一杯だ。反撃ができる隙がまったくない。

「ビーーーーーーーッ!!!」

いかん!右ストレートを避けた直後に、左フックが飛んできた!最初からこっちを狙っていたのだ!

フックは俺の鼻柱に斜めからえぐるように直撃し、俺は吹っ飛び壁に激突した。

「・・・あれ?そんなに痛くないな」

「バカ!テツ!俺が止めたんだよ!お前は寸止めのパンチの勢いで飛んだだけだ!」

金田が叫んでいた。

「とかいってるうちにヤツが動き出しちまうから、はやくしとめろ!」

「お、おうっ」

オンドゥルルラギッタンディスカー!!!」

生ける屍が何かを必死に叫んでいる。

オンドゥルルラギッタンディスカー!!!!!」

「ん、何を言ってるんだ?やられる前から断末魔の叫びか?」

「んなことどうでもいいからはやくしろ!もうこれ以上止めていられない!」

なぜか心をかき乱されるような気持ちがしたのだが、ここはとどめを刺すところだ。

俺は大きく息を吸い込んだ。

「必殺!屍ローリングサンダー!!!」

左足を軸にして、一回転して右足のカカトを相手のみぞおちに直撃させる。要するに後ろ回し蹴りだ。

「アッ!それオレの必殺技!どうシテッ!?」

生ける屍はそう叫びながら窓の向こう側に吹っ飛んでいった。

ここは7階だ。この高さから落ちたらモンスターとてひとたまりもないだろう。

脳も破壊されているはずだ。

しかし、なぜか俺の心は少々動揺していた。生ける屍が最後に叫んでいた妙な言葉が心に引っかかっているのだろうか。俺としたことがどうしたというのか。勝負はついた。忘れることにしよう。

「どうやら、テツはモンスターの技を盗んで使える能力を持っているらしいな」

金田にそう言われて、始めて気がついた。

「そうらしい。この技は、俺が部下をやらされている時に身につけたんだ。ゾンビ族どもに色々な技をかけられていじめられたもんでな。他にもいくつか覚えているよ」

「災い転じて福となすというところかしら?」

金田真奈芽の言葉に俺は笑みを返した。

「フッ。そんなところだろうな」

「ところで修理代はしっかり払ってもらいますからね」

「・・・・・・」