嘘ゲー:rushtetsu

 ・番外編(ネタバレ注意)「ワッフル久萬太郎のスーパーリアルクエストイベントガイド」 

 ・0「購入記」   ・1「プレイ初日」  ・2「脱出」  ・3「運び屋」  ・4「リアルファイト」  ・5「戦士CAN-DO」
 ・6「刺客」  ・7「はてなダイアリー」  ・8「リアルプレイヤー」  ・9「チーマー・ゴロウ」  ・10「ミルク刑事」
 ・11「TVニュース」  ・12「CAN-DO来る」  ・13「占い師」  ・14「天才ゾンビ」  ・15「作戦会議」 ・16「ゾンビ100人組手」

2004-05-05

[]-スーパーリアルクエスト- その10「ミルク刑事」

ゾンビは幽霊を怖がる。

この情報を元に、俺はシプヤ中を歩き回った。ちなみにレベル7である。

色々なところを歩き回っている間に、不良や弱いゾンビから絡まれることがある。逃げずにリアルファイトで倒しているうちに自然にレベルは上がっていった。幽霊情報とは別に、強い仲間もスカウトしたい。

倒したチーマーに、強い奴の情報を尋ねると、シプヤにあるキックボクシングジムに行けば、強い格闘家はいるだろうという話だった。

「キックボクシングジムがあるな」

俺は薄汚れたビルを見上げた。3階の窓から中で何人かが稽古をしているのが見える。

「見学かい?」

足を踏み入れた俺に、インストラクターのような印象の男が近づいてきた。

「えーと、その・・・強い人を探しに・・・」

「ここには強いやつはいっぱいいるよ。まあ一番強いやつはちょうどさっき出て行ったばかりだから、タイミング悪かったね。」

「そいつの名前は?」

インストラクターはやや怪訝な表情になった。

「君、ミルク刑事のファン?まあ、前大会で優勝したからねえ」

「ええ、そのミルク選手のファンなんですよ。前の大会でファンになりました。彼のサイン貰おうかなと思って」

「出て行ったばかりだから、まだ会えるかもよ。美弥升坂の方角に行ってると思うよ」

俺は一礼すると、美弥升坂へ走った。

人混みの中から首一つ飛び出た後ろ姿を発見した。185はあるだろう。スポーツバッグを肩から提げている。俺はそーっと近づいていった。

男はセプンイレプンに入っていった。俺も続いて入店する。

男は真っ直ぐに飲み物コーナーに向かうと、1リットルの牛乳を手にとってすぐにレジに向かった。俺は雑誌コーナーで、「バニラ」を手に取った。開くと、ちょうどセティの写真が掲載されたページだった。

男は、コンビニを出たところで牛乳の一気飲みを始めた。ゴキュゴキュという音が聞こえてきそうな勢いだ。

そんな中、一見して明らかに怪しい客がスッと入店してきたかと思うと、店員に銃口を向けて濁って嗄れた聞き取りにくい声で命令していた。

「金・・・出セ。早く・・・シロ」

そいつの後ろ姿は、黒いコート姿に黒い帽子をかぶり、中肉中背。これで仮面を被っていたらこいつは・・・。

と思っていると、そいつが店内をすばやく見回した。

ゾンビか・・・」

俺は興味がないフリをして、雑誌に目を落としていることにした。ゾンビ族が、上からの命令(殆どのゾンビ族には上が何者なのかを知らないが)で、様々な手を使って資金を稼いでいるのは知っている。業務内容も真っ当に経営している店も存在するが、多くの店舗はあくどいことをやって荒稼ぎしていると聞く。もちろん露骨な犯罪行為も行っているが、夜に目立たない程度にやる程度だろう。ぼったくり、飲み屋、用心棒、殺し屋、架空請求、ひったくり、スリ、など噂を聞いたことがある悪事だけでもいとまがない。まともなところでは、スタントマンで稼ごうとしたゾンビもいたというが、これは本人が死んでしまい金は受け取れなかったという話だ。火で全身を覆われた状態で数十秒耐えるという仕事だったが、消化が間に合わず脳髄まで火あぶりになってしまったらしい。もっとも仕事内容のおかげで、彼の正体はバレなかったらしいが。

それにしても、堂々と強盗をやるとは・・・。よほど厳しい資金ノルマが課せられているのだろう。ゾンビも楽じゃない。短い間だったが仲間だったこともあるので、下っ端ゾンビの辛さは全く分からないわけではない。下っ端ゾンビの多くは人間のレベルの知能を有しておらず、たとえ有していたとしても、その知能レベルは素材となった脳髄の状態に大きく左右される。分かっていることは、記憶が残っていたとしても一度死んだ人間の人格が再現されることは絶対にないということだ。彼らゾンビ族は、全く新しい邪悪な気質を持った存在として作り出される。生前の記憶に行動が左右されることはあるが、生前の人格は完全に失われており、魂のない肉体にそれが復活することはあり得ないらしい。


「早く・・・シろ!殺す・・・ゾ!」

レジから金をかき集めた店員が、ゾンビが手にした袋に金を入れた。

そそくさと店を出て行くゾンビ

だが、自動ドアで開いているはずのドアにぶち当たり、店内に転倒しながら戻ってきた。

まだ牛乳を片手に持ったまま、入り口に立ちはだかる男がいる。

「刑事だ。現行犯でお前を逮捕する」

牛乳を飲み干して、パックを投げ捨てると、懐から警察手帳を取り出した。

「あヒャ!そこ・・・ドケ!オレ・・・逃げる!」

「抵抗するなら・・・」

脇をすり抜けようとするゾンビに、刑事は素早い左の膝蹴りを放った。

それはゾンビの脇腹に突き刺ささり、ゾンビはまた後ろに転がった。

「苦しまないとは・・・よほど腹が頑丈な奴か」

落ち着き払った様子で、ゾンビのほうに歩み寄る刑事。

ゾンビはすぐに立ち上がり、攻撃を繰り出してきた。

ゾンビパッ・・・オゴシェッ!」

ゾンビのパンチが届くよりずっと速く、刑事のストレートがゾンビの仮面を派手に打ち砕いた。中の顔が露わになる。なんとも形容しがたい、潰れて目も鼻もまともに認識できないくらい破壊された顔だ。

それを見て、刑事は一瞬怯んだ。

「過去に辛いことがあったのかもしれないが、強盗をしていい理由にはならないぞ」

どうやらこの刑事はゾンビの存在を知らないようだ。

「ソレ以上・・・近づく・・・自爆・・・スる」

ゾンビがコートを広げると、体に大量の爆薬が巻かれていた。店員が悲鳴を上げて一目散に店を飛び出して行った。俺も成り行きを見つつも、いつでも逃げられるように入り口付近に立っていた。

「お、おい!早まるな!たかが強盗で死ぬことはないだろう。考え直そうよ、な。人生まだやり直せる・・・」

刑事はそう言いながらもジリジリと後ずさっていた。

「イヤ・・・今決めタ・・・お前・・・道連れ」

言葉にならない叫びをあげながら、刑事が俺の方にスッ飛んでくる。

「邪魔だどけッ!」

刑事は俺に思い切りタックルし、共にコンビニの外に転がり出た。

その瞬間、耳をつんざくような爆発音がして、コンビニのあらゆるガラスというガラスが凶器となって歩道にいた人々を襲った。俺は運良く、刑事の下敷きになっていたので完全に無傷のようだった。

盾である刑事から這い出て辺りを見回すと、コンビニは建物自体はそこにあったが、中は壊滅状態になっていた。爆風と窓ガラスで負傷した人が、何人か路上にうずくまっている。

刑事がヨロヨロと体を起こした。ロングコートにガラスが大量に突き刺さっているが、体にまでは達しなかったようだ。爆発と同時に後頭部で手をクロスさせていたので、頭部も無傷に見える。

「くそー。あいつ死んでしまったのか・・・。飛び降り自殺といい、最近おかしいぞ・・・」

俺は、ぼやく刑事の肩をそっと叩いた。

「あいつはゾンビですよ。元から死んでいたんです。ミルク刑事」

刑事は怪しい者を見る目で俺を見た。

「なんで俺の名前を知っている。お前は誰だ」

「はじめまして、テツと言います。あなたと同じように、東京の悪と戦う者です。でも警察じゃありません、強いて言えば「戦士」ですかね」

「怪しい奴だな。ともあれ、お前も事件の重要参考人として署までついてきてもらおうか」

それはまずい。別にやましいところはないが、ミルク刑事がゾンビの存在を知らないくらいだから、署でそんな話をしたら事態は悪い方に進むだけだろう。

「強い人間を探しているんです。共にゾンビと戦うための」

俺はメモ帳金田真奈芽のマンションの電話番号を書いて渡した。

「私は夜はここに居ます。電話してください」

それだけ伝えると、俺は日が落ちかけた夕暮れの街に姿をくらませた。