嘘ゲー:rushtetsu

 ・番外編(ネタバレ注意)「ワッフル久萬太郎のスーパーリアルクエストイベントガイド」 

 ・0「購入記」   ・1「プレイ初日」  ・2「脱出」  ・3「運び屋」  ・4「リアルファイト」  ・5「戦士CAN-DO」
 ・6「刺客」  ・7「はてなダイアリー」  ・8「リアルプレイヤー」  ・9「チーマー・ゴロウ」  ・10「ミルク刑事」
 ・11「TVニュース」  ・12「CAN-DO来る」  ・13「占い師」  ・14「天才ゾンビ」  ・15「作戦会議」 ・16「ゾンビ100人組手」

2004-05-20

[]-スーパーリアルクエスト- その14「天才ゾンビ

夜は瞬く間にやってきた。今日もハンター街で何体かのゾンビを倒しレベル12になっていたが、昨日よりも連続でゾンビに絡まれ続けている。そろそろ道を抜けようとしても、ゾンビにエンカウントする。昨日暴れすぎて、ゾンビどもに目を付けられたのかも知れない。ただでさえ、俺は指名手配中の身のようなものだ。ゾンビと連続してやり合うには、レベルも実力もギリギリだ。

なんとかハンター街を抜け出た頃には、22時30分になっていた。ギボアーノ婆さんを待たせることになってしまった。予定では22時前にいくつもりだったのに。俺はシチ公広場まで走った。人だかりをかき分け、婆さんのテーブルに駆け寄る。婆さんは、フードを深く被って座っていた。

俺は息を整えてから、声をかけた。

「婆さん、待たせてごめん」

しかし、ギボアーノ安堂は微動だにしない。俺に気づいていないのだろうか。

ギボアーノ婆さん、昨日の俺だよ。まだ名前教えてなかったけど、テツっていうんだ。もしかして寝ちゃったとか?ハハハ・・・」

俺は軽く笑って、婆さんの肩をゆすった。すると、婆さんの体はなんの抵抗も示さずに、前のめりにテーブルに突っ伏した。大きな目が見開かれ、白目をむいている。そして、その背中には深々とナイフが刺さっていた。

ギボアーノ安堂は明らかに死んでいた。22時からの30分の間に何者かによって殺されたのだ。

俺は刺さっているナイフを調べた。果物ナイフだ。不良どものしわざではない。不良は飛び出しナイフを使う。こんなナイフで人を殺すのはいかれた野郎だけだ。逝かれた野郎。ゾンビに間違いない。おそらくは昨日、後をつけられて会話を聞かれたのだろう。そして、今日俺を時間稼ぎのためにハンター街に引き留めておいて、彼女を殺した。俺のせいで婆さんは殺されたのだ。

そうだ、鍵だ。奴らは鍵を奪って逃げたはずだ。だが、ゾンビは基本的にバカだ。カギを奪っていない可能性もある。俺は婆さんの体を調べた。服やテーブルなどにカギは隠されていない。やはりゾンビが奪ったのだ。貸金庫に急がなければ冷凍庫を奪われてしまう。

婆さんごめん!埋葬は後で・・・と思ったが、俺がもし死体の発見者だといっても、そのまま犯人にされてしまうのではないだろうか。彼女とは昨日始めて会ったばかりだし、俺にはなんのアリバイもない。通行人も彼女が殺された瞬間は見てないようだし、どう考えても俺が不利になるだろう。ここで捕まるようなヘマをするのはばからしい。婆さんには悪いが後は警察に処理してもらうしかない。俺はギボアーノ安堂に手を合わせて、心の中で謝った。その時、彼女の口の中に何か光るものが見えた。口を手で開けると、それが鍵であることが分かった。彼女はゾンビに襲われた際に鍵を口の中に隠したのだ。俺は鍵を手に取った。

貸金庫はシプヤの電力館の側にある。あちこちで目を光らせているゾンビに気づかれないように行かなければならない。奴らがすでに貸金庫で待ちかまえている可能性もある。

鍵はこっちが持っているのだから、急ぐ必要はなくなった。俺はしばらく考えたあげくに、真奈芽のマンションに電話をすることにした。ちなみに金に余裕が出てきたので、携帯を契約したのだ。テレビ電話機能が付いた優れものだ。

が出た。電話まで行くのが面倒だから、電話ごと自分の車椅子のところまで飛ばしてきたと言う。俺は、今までの出来事を伝えて協力を要請した。は了解したが、もう夜遅いから貸金庫はやっていないのではないかと言う。それもそうかもしれない。しかたがないので、明日出直すことに決めた。ゾンビが尾行している可能性が高い。建物の中に入って非常階段を使って裏口から出たり、小さな路地に入ってしばらく身を隠してみたりと様々な工夫をして、極めて慎重な方法でマンションにたどり着いた。



「おい、起きろ。よほど疲れていたんだな」

に起こされて、時計を見ると11時だった。

「朝のニュースでやっていたぞ。ギボアーノとかいう占い師の刺殺事件。手がかりはないと言っていたから、お前のことは目撃されてないそうだ」

都会の無関心というやつだろうか。逆に人混みの中だったからこそ、気づかれにくかったのかもしれないが。

真奈芽は仕事に行き、俺とは二人で貸金庫に向かった。もちろん俺が車椅子を押す役だ。

「おい、やばいぞ」

が言う。電力館の隣のビルが封鎖され、パトカーやら警官やらが集まっている。

に頼んで、警官に話しを聞いてもらった。警官の話によると、昨晩未明に業務を終了していた貸金庫ビルが何者かによって襲撃されたという。警備員が殺害され、爆弾によっていくつかの金庫が破壊されたらしい。見ると、ビル自体も爆弾の影響で今にも崩れ落ちそうなほど破壊されている。

「やられた・・・」

俺はうなだれた。やつらは霊凍庫を奪うどころか、強引に破壊する作戦に出たのだ。

だが、霊凍庫が破壊されたと決まったわけではない。

俺は思いきって、警官に聞いてみた。

「この貸金庫に大事な物を預けていたんですが、貸金庫は全部壊れてしまったんですかね」

「いや・・・金庫自体は建物よりも頑丈にできていてね。一部の金庫の扉は破壊されて中の物が盗み出されたみたいだが、多くは無事のようだ」

それを聞いて、俺はポケットの中の鍵を握りしめた。今なら開けられるかもしれない。だが、ビルは閉鎖されていて業務停止中だ。強引に入り込むと怪しまれることは間違いない。

「しばらく様子を見るしかないな」

俺はに話しかけた。

「何言ってんだ。早く霊凍庫のところへ行け」

「そうか・・・って。、無茶言うなよ。今は入れないだろう」

しかし、は不思議そうな表情でこちらを見上げてこう言った。

「どうしたテツ。何独りごと言ってるんだ?」

今早く行けとか言っただろうが・・・。そっちこそ何言ってるんだ。

「じゃ、貸金庫が再開するまで待つしかないな。今日は戻ろう」

俺はそう言って、の車椅子を押し始めた。

「おい、待て。霊凍庫のところへ行け!」

の声ではなかった。俺は周囲を見回したが、誰もいない。

人の声というより、耳のすぐそばで囁かれたような奇妙な感じがしたのだが。

霊凍庫は無事だ。俺が案内する」

間違いなく、誰もいない空間から話しかけられている。

「何キョロキョロしてるんだ?戻るんだろ。とっとと行こうぜ」

が急かす。

「俺は幽霊だ。俺が案内する」

「それを先に言え!」

俺は思わず、叫んでしまった。

すると、今度はが反応する番だ。

「先もクソもあるか。とっとと行くぞ、テツ」

「いや、お前に言ったんじゃない、。こっちに行くぞ」

「おい!そっちは駅の方じゃないだろう」

俺は文句を言うを無視して、車椅子を駅とは反対方向に押し始めた。

「次の道を右だ」

幽霊の声に従って進む。

「次を左」

そして、人気のない路地に入り込んだ。

何者かが待ちかまえていた。

「もしかしてゾンビ?」

定かではないが、ゾンビの雰囲気を持っている。定番の黒コートに帽子と仮面とはやや異なり、カジュアルな服装に身をつつみ、その上にダッフルコートを着て、顔にはサングラスとマスクを着用している。

「ノンノン・・・シプゾンだ。シプヤ生まれのシプゾン。俺のことはシプゾン・ハイドと呼んでくれ」

名前を名乗るということは、上級ゾンビだろうか。語り口も人間並みに自然だし、そうとう知能が使えている様子だ。

「お前が欲しいのはこれだろう?テツ」

シプゾン・ハイドはおよそ20センチ四方の金属製の箱を手に取った。あれが霊凍庫だろう。間違いない。というか、明らかにフタが開いている。全開だ。

「なんで、ゾンビのお前が霊凍庫を?しかも開いていると言うことは、封印されていた霊が出ているということだ。お前を認めない限り、箱は開かないはずなのにおかしいぞ!」

シプゾン・ハイドはため息をついて、首を振った。

「これだから、低能は困る・・・。人間のくせに考えると言うことを知らんのかね」

「なにぃ!」

俺は構えの姿勢をとった。

「誰が戦うって言ったよ。ますます馬鹿だな。こんな人間に協力するのは気がすすまないが、しかたがないな・・・」

協力?ゾンビが俺たちに協力だと?どういうことだ?

「口を呆けたように開けて、知能のない低能ゾンビの脳髄にも劣る思考回路で何かを考えているようだな。まあ、いい。待っていても馬鹿には答えは出せないだろうから、説明してやろう」

腹が立つがしかたがない。俺は黙って聞いてやることにした。

「人間よ。まず、自己紹介をしてやるからよく聞け。俺様は、ゾンビの中でも傑作であると同時に奇跡でもある存在だ。讀獨存美に殺されたらしいが、死体になんの損傷もなかった上に、死んでからすぐに博士によってゾンビとして蘇った。知能のないゾンビは哀れなものになると、半年も動けないらしい。だが、俺はすでに1年も動いている。博士によると、俺くらいの傑作になると無理しなければ5年は動けるそうだ。戦闘を重ねてしまえば5年どころか1年も持たないだろうがね。そこで俺は長く稼働するために、できる限り戦闘を避けて、讀獨存美の元で目立たないように仕事をしてきた。俺様にも立派な邪悪な意識があったが、元々戦闘には不向きな体つきなのだ。無理をしてせっかくの体を壊したくない。

生前の記憶の一部も検索できるようになり、俺はこの体の持ち主が生前ハイドという名前の天才ギタリストであることを知った。天才は天才となって蘇る。俺は、ハイドという男を見習って自由に死のうと思ったんだ。だが、俺はゾンビだ。俺にとって自由など遠い夢であり、幻だ。マスターパペットの下僕として、壊れるまで働くしか道がないんだ」

長いな・・・。だが、何か言うとまた罵倒されそうなので、我慢して聞いていることにする。

「短い稼働時間でもいい。俺は天才ゾンビにふさわしい新たな生き方・・・じゃない死に方といったほうが適切だな。俺らしい死に方を求めていたんだ。俺はゾンビだからギターは弾けない。だが、俺の脳の奥から様々音楽が流れてくるんだ。心を揺さぶるようなフレーズが聞こえてくるんだ。あいつが、ハイドが、脳の中でギターを弾き続けているんだ。俺にはヤツの心は分からない。だが、記憶の海の中であいつのギターだけは生き続けているんだ。俺は獨讀存美の元を逃げ出して、いつか自由に死ぬ機会を伺っていた。そして、昨日だ。霊凍庫の話を聞いた。俺はピンときたね。イタコ・・・幽霊・・・。もしハイド幽霊がずっと側にいたとしたらどうする?ヤツと接触できるまたとないチャンスじゃあないか。

そして、俺と一緒に行動してたゾンビが占い師を殺したよ。ああ、見事な殺し方だった。スマートすぎて俺には真似できないね。あの低能ゾンビは殺しに関してはプロ中のプロだね。そして、そのまま狂ったような勢いで貸金庫を襲ったのさ。爆弾仕掛けて外に逃げ出そうとしたが、俺がヤツと警備員をビルの中に閉じこめた。そしてドカーン。見事なまでにうまくいったよ。開いた金庫の中に、これだ」

シプゾン・ハイドは得意げに霊凍庫を持ち上げて見せた。

「俺は祈った。天才として死にたい。これから何年死ねるか分からないが、俺らしく傑作天才ゾンビらしく死にたいと願ったんだ。するとどうだいベイビー。箱が開いたじゃないか、さすが天才の俺だね。俺に不可能はない。そして、出てきたのが・・・」

「私よ」

女性の声が聞こえたが、どこにも姿は見えない。

幽霊は普通の人間にもゾンビにも見えないわ。声を聞くことができるだけ。でも私の力を使えば、幽霊が人間やゾンビに声以外の影響を及ぼすこともできるわよ。そうね、例えば・・・。テツ、あなたの背後には7人の幽霊が常につきまとっているわ。ここまでの道を案内したのも、そのうちの一人よ。じゃ、道案内をしてくれた幽霊加藤賢治さん。ちょっとそのゾンビの動きを止めてみて」

「ラジャー」

すると、何も目には見えないが、シプゾン・ハイドがもがいている様子だった。

「ぬお。腕がうごかない!やめろ、傑作である俺様の体の自由を奪うのはよせ!」

「ハハハハハ。申し訳ない。霊の加藤賢治です。はじめましてゾンビさん。こうやってゾンビや人間と会話することができるのも、綾尋千里様のおかげです」

「テツ。私はこのゾンビを信用するわ。彼は獨讀存美マスターパペットを倒すのに協力してくれるというの」

こんないけ好かないヤツを仲間に入れろというのか。


「そういうことだ。俺の仲間にしてやるから、テツとそのフレンドも俺の言うことに従え」

俺は言葉が出なかった。しかし、は乗り気だった。

「すげえぜ!なあテツ。天才ゾンビに大勢の幽霊。仲間が増えたなあ!」

俺はため息をついた。まあ、これで勝てるというのなら何も言うまい。

「そろそろ来るわ!シプゾン・ハイド!」

「おお、ようやく来るか!」

綾尋千里の言葉でシプゾンに緊張の色が見えた。一体何が来るというのか。

しばらくして、元気のいい大きな声が聞こえた。

「よおー。呼ばれて来てみれば、なんと俺様の死体と面会できるとはなー。普段じゃこんな移動はできないが、イタコ様の力でここまで来ることができたよ。ありがとう千里さん」

「どういたしましてハイドさん。あなたが成仏できてないことはすぐに分かったわ。そもそもゾンビ族に殺された人達はほとんどが成仏できずに霊となって彷徨っているのよね。ハイドさんに術をかけて、シプゾン・ハイドさんの肉体の側に地縛霊として常に一緒にいるようにしたわよ。これからはお互い会話も交わせるわ」

「すばらしい。天才ゾンビに天才バディの持ち主の霊とは心強いね。よろしくハイド。」

「よろしく。シプゾン・ハイド。俺の肉体を大事にしているようでなによりだ。あと3年は長死にしてくれよな」

「ああ、お前もそのときまで成仏するなよ」

「それはできない約束だ。俺はマスターパペットが死んだ時点で成仏すると決めているんだ。もっとも自分じゃあどうなるか分からないが、多分恨みが消えた時点で成仏してしまうだろうなあ」

「おいおい、自分の肉体の行く末ぐらいは最後まで見届けてやれよ。それとも最後の別れの時が来るのが怖くて、先に逝ってしまおうということか?」

俺とはその奇妙なやり取りに声を出して笑った。千里幽霊達も声だけだったが、笑った。人気のなかった路地が、しばし笑いにちたひとときだった。

しかし笑いの渦の中に、途中からしわがれた聞き覚えのある笑い声が混じり出して、俺は思わず叫んで飛び退いた。

「そんなに驚くんじゃないよ。なんじゃい、人を化け物みたいに驚いたりして」

ギボアーノさん!ギボアーノさんなのね!」

感極まった様子の綾尋千里

「そうじゃよ。わしじゃよ。千里

「会いたかった!」

「わしもじゃよ。千里。これからはゆっくりと話せるねえ」

「ええ。マスターパペットを倒して、私たちが成仏するまでの間にね」

声だけの感動の再会が繰り広げられていたが、俺はただ俯いているしかなかった。

そんな俺にギボアーノ婆さんのほうから話しかけてきた。

「なに元気なくしてんだい。せっかくわしが会いに来てやったんじゃからもっと歓迎せんかい!」

俺は喉が詰まって言葉が出なかった。

「いっちょ前に責任感じてんじゃないよ。お前は賢明に戦って、わしのところへ走ってきた。全部分かっとるよ。お前は何も悪くない。自分のできることをやっただけじゃ。それにわしはもう何も思い残すことはなかったからいいんじゃ。みんなで仲良く成仏することだけが、わしの最後の希望じゃよ。そのためにはテツ。お前が何をするべきかは分かっておるじゃろう?」

「・・・ああ」

なんとかそう答えた時、俺の頬を伝わって落ちるものがあった。

2004-05-19

[]-スーパーリアルクエスト- その13「占い師」

予想したとおりの事態を前にして、俺は自分が言うであろうと予想したとおりのセリフを店員のおっさんに向かって吐いていた。

「これは・・・冷凍庫だよね」

「またまたー。お客さん、ご自分で冷凍庫っていったじゃあないですかッ。単身用ならこの冷蔵庫の冷凍庫がベストだよッ。冷凍庫が広めのサイズなんで、パンとかご飯とかなんでも色々冷凍しておけますよッ」

首領キホーテの店員は、相変わらずの軽い語り口だった。

「いや、冷蔵庫は間に合ってるんだ」

「すると、冷凍庫だけ欲しいんですか?別売りはできないんですよ」

「冷凍庫のレイは幽霊の霊なんだ。ある人物の霊が封印された入れ物を霊凍庫というらしい」

幽霊・・・ですと?」

店員の顔色が変わった。何か心当たりでもあるのだろうか。

「私は・・・幽霊が苦手でしてね。趣味で写真をたしなむんですが、たまに私が撮った写真にその・・・幽霊が写っていることがあるんですよ」

このおっさんの趣味は盗撮だ。おっさんの撮った写真が心霊写真になっているということか。

「詳しい人に見て貰ったんですが、どうやら霊感の強い人が撮る写真にだけ写ることがあるそうなんですよ。私は普段は霊感なんぞ分からんのですが、写真にはこだわってるんで、映ってしまうのかなあと。最初は怖くてすぐ捨てていたんですが、そのうち写っている霊に興味を持ち出しまして、どんな霊なのかを専門家に鑑定して貰っているんですよ」

店員はポケットから写真を何枚か取り出してそのうちの一枚を俺に見せた。

明らかに盗撮写真だ。スカートの丈を短くした制服姿の女子高生の生足が映っている。角度的に下から撮ったものではなく、下着は写っていない。おそらく場所は駅の地下通路で、前を歩く女子高生を怪しまれないように撮ったものだろう。健康的な足だが、そこは見るべきところではない。薄暗い通路の脇の狭い空間に何かが写っている。

「壁のところをよく見てみてください」

壁際に一見浮浪者が座っているのかと思ったがそうではなく、壁から奇妙な首が突き出ていた。顔の形が歪んでいて、目が肥大化している。明らかに生きている人間の顔ではない。飛び出しそうな眼球は、女子高生を凝視しているようにも見える。この盗撮おっさんと同じような趣味を持った男の幽霊なのだろうか。波長が合うから写真に写るのかもしれないな。

「それも鑑定してもらったんですが、人が大勢集まる駅のような場所には、何かを訴えたい幽霊が地縛霊となって居座る例がよくあるらしいです。その幽霊は、その駅の階段で足を滑らせて頭を打って亡くなった男のものだそうで。その悔しさから成仏できずに、未練とともに地縛霊となってしまったのでしょう」

うさんくさい話だが、霊凍庫というおかしなものが存在する世界のことだ。心霊写真の存在くらいは信じてやってもいいだろう。しかし事故で命を失った悔しさで地縛霊になったのか、それとも単なるスケベ心で通学途中の女子高生を見るために地縛霊になったのかが気になるところではある。何にしても成仏できないのは、不幸なことなのだろう。男の幽霊の表情には苦悶の色も感じられる。

写真を鑑定した人物について聞いてみた。

ギボアーノ安堂先生なら、夜のシプヤで占いの仕事もしているからすぐに会えると思いますよ。シチ公のある広場に10時頃行ってみるといいです」


首領キホーテを出て、夜までハンター街でバトルをこなして時間をつぶして過ごした。レベルは11になった。シプヤの不良どもはもはやザコである。たまに暴力団をぶちのめした後にゾンビが出てくるようになったが、一体しか出ないので、ボコられる心配もなく難易度の高い技をぶつけてヒットアンドアウェイで戦えば勝てる相手である。ゾンビは不良どもと違って倒しても金やアイテムを落とさないが、得られる経験値はなかなかのものだ。

ちなみに、ハンター街の不良達を倒して得たアイテムで、そこそこの装備にはなってきていると思う。とはいえファンタジーもののRPGではないので、剣やら盾やらを落とすわけではなく、落とすアイテムもごく僅かなものなのだが、少ない種類ながらもこだわるべきポイントがあるのだ。

俺が何週間もの間、メインの武器にしている鉄パイプだが、ずっと同じモノを使っているわけではない。攻撃力や耐久力が高いものに入れ替えていっているのだ。この辺りのことは、DIABLOをやり込んだ俺にしてみれば心得たものだ。単なる鉄パイプと侮るなかれ、あらゆる武器には質による基本攻撃力以外にも「装備品のランク」という称号ランクが存在し、ランクの高いものは低いものの攻撃力の何倍もの攻撃力を誇るのだ。

愛用の鉄パイプは基本攻撃力40~60の中でも55を誇るが、「修羅場を越えた」という称号が付いていて、攻撃力にプラス修正が付くため、実際の攻撃力は相当なものである。この上のランクも当然存在すると思われるので、それを手に入れるためにはさらなる戦いを経験しなくてはならないだろう。

なお、戦いに入る前に武器を設定するようになっているので、素手や指サックだけで戦いたい場合は外すことができる。敵によって武器を変えるのは基本だ。ゾンビには鉄パイプによる距離をおいた戦いが有効だが、不良はナイフを持っていることが多いので、より機敏なフットワークができる指サックのみのほうが、有効な打撃技をくらわせることができたりする。鉄パイプを振り降ろしてナイフをたたき落とそうとしても、相手の動きが素早いので簡単にはできない。それよりも、相手がナイフをつきだしてくるタイミングに合わせて、避けると同時にカウンターで打撃を入れる戦法の方が確実なのである。鉄パイプの扱いが難しい理由として、技の入力コマンドが素手の技よりも複雑で、入力に時間がかかるということがある。ボタンの入力がひとつやふたつ多いだけで、その間に攻撃をくらってしまっては元も子もない。攻撃力が高い武器ほど、入力コマンドは複雑になっていくようだ。


22時のシチ交の前広場は、帰宅する人々で溢れていた。いくつか並ぶ露店を見回すと、彼女はすぐに見つかった。顔を隠すようにフードをかぶり、小さなテーブルの上にほんのりと淡い光を放つランプを置いて独特の雰囲気を作り出している。

俺は静かに近づいていった。脇の小さなついたてに「霊感占い ギボアーノ安堂」と書いてあるので、彼女で間違いはないようだ。

「そなたの行くべき道を占いましょうぞ」

彼女は顔を上げずに言った。俺は椅子に腰掛けて彼女の顔をのぞき込んだ。どうやら相当歳をとっている様子だ。声もしわがれているし、老婆といっても差し支えないだろう。

「むぅ・・・そなたの背後にはたくさんの霊が見えますぞぇ。これは珍しい。これほどの数が集まっているのは始めてじゃ」

ギボアーノは私を一瞥しただけで、後は目を閉じてうつむいたままで言った。目をつむって霊が見えるのだろうか。

「しかし、安心なされい。そなたに恨みを持つような悪い霊はおらんですじゃ。むしろそなたを応援しようとする意志が感じられる。そなたに何かを期待しておるようじゃな」

「私に何を期待するといういうのでしょう」

俺はとぼけたように答えた。

「そなた・・・何か強大な力と戦っておるな。その霊たちは皆、このシプヤの街で亡くなったものたちじゃ。・・・その強大な力によって殺されたものたちじゃな。そなたがその強大な力を倒せば、霊達は成仏できるじゃろう。そなたの行くべき道は・・・ズバリ!」

ギボアーノはいきなり顔を近づけて、目を見開いた。三白眼の大きな目が俺を見据える。俺の呼吸が止まった。

「協力してくれる仲間達の力を借りて、強大な力を倒すことじゃ」

そう言って、口の両端をつり上げて、満面の笑みを浮かべた。

霊凍庫のことを言い出すタイミングを伺っていた俺は、早速口を開こうとしたが、その前にさえぎられた。

「むぅ!待たれい。何も言うなや。・・・そなた。わしに会うことで未来が開けていくようじゃな。ふぅむ。わしはつまらぬ占いをしただけじゃが・・・」

「そのことでお話があります」

「待たれい!何も言うなや・・・。ふぅむ。分かったぞよ。わしの持つ大切なものをそなたは必要としておるな?」

「ええ。よく分かりましたね」

「となると、あれしかないぞなもし。しかしあれは簡単に人には渡せないもの・・・」

「そこをなんとかお願いします。私には絶対に必要なものなのです!」

俺の真剣な表情が伝わったのか、彼女はすぐにおれた。

「よかろう。だが貸すだけじゃぞ。明日持ってくるから、また明日の22時にここにくるがよい」

「ありがとうございます。ところで、綾尋千里とはどのようなご関係で?」

老婆は、口を呆けたようにあけて俺の顔をまじまじと見つめた。

「あぁ~?わしの宝とそれとどういう関係があるのじゃ?」

綾尋千里の霊が封印された冷凍庫を貸していただけるんですよね」

「んが。あ~あっちか・・・。なるほどのう。ほうほう、なるほどうなるほどう。わしゃあてっきり宝物のジャミーズの瀧&椿のサイン入り色紙の方かと思っておったわい。うひゃひゃひゃひゃ」

豪快に笑った老婆の唾液が俺の顔面にかかった。そんなものでどうやって敵と戦うのかと言いたいが、突っ込むのもばからしい。だが、老婆の顔はすぐに極めて真剣なものに戻っていた。

綾尋千里はわしにとって娘も同然の存在じゃった・・・。もちろん何の血のつながりもないし、頻繁に会っていたというほどでもない。ただの友達じゃ。だが彼女は両親を早くに亡くし、わしは子供がいない身。そして彼女はイタコという職を持ち、超人的な霊能力を持っておった。わしの霊能力など彼女の足元にも及ばん。わしは霊の存在を確認し、意志をくみ取るのがせいぜいで、彼らと会話を交わしたり力を具現化することなどはできんからな。だが、数少ない霊能力者同士惹かれ合うものがあった。わしはなんでも彼女の相談にのったし、彼女もまたわしに甘えてくれた。しばらく会っていなかったある日のこと、千里は変わり果てた姿でわしの元へ送られてきたんじゃ」

それが霊凍庫というわけか。

千里は何に関わっていたのかわしに言わんかったし、死因さえも言わんかった。その箱はわしの前でも開くことはなかったんじゃ。ただ、千里はわしに語りかけてきた。この箱を必要とする勇者が現れた時に渡してくれとな。今にして思えば、そなたが戦っている相手に千里も殺されたんじゃろうな・・・。おそらく全ては秘密の行動だったのじゃろう。無力なわしにそれを告げなかったのは当然じゃ。じゃが、わしに箱を託してくれたことは本当に嬉しいんじゃ。千里にとって、わしが一番信頼できる人物だったということじゃからな・・・」

ギボアーノの大きな瞳は潤んでいた。

「あれをここに持ってきて手渡すことはやめたほうがいいじゃろう。あれは貸金庫に保管してあるんじゃ。明日わしがそのカギを渡そう」

ギボアーノは貸金庫の場所を教えてくれた。

「今日はもう疲れて占いをする気分じゃないから、帰るとするよ・・・。あ、今回の料金は箱のレンタル代も含めて2万R.だよ」

2004-05-12

[]-スーパーリアルクエスト- その12「CAN-DO来る」

「君は・・・確かカン・・・」

キャンドゥだ。もっとも本名ではなく、戦士としてのコードネームだけどね」

訪問者はミルク刑事ではなく、何日か前に街で会った若い男だった。記憶を失う前の俺のことを知っている様子だったな。

「君が戦士としての任務を全うしようとしていることに敬意を表するよ。今はもう、まともに動いているやつはほとんどいないからね・・・。あ、立ち話もなんだから、入ってもいいかな」

俺はCAN-DOを居間に案内した。

「同じ戦士として、君に有益な情報を与えに来たよ・・・。ああ、情報料はいらないよ。情報提供は仲間として当然のことだ。お互い単独行動の任務だったけど、今となってはそんなのは関係ないからね。目的を達することさえできれば、やり方もなんだっていいのさ」

今となっては、という言葉がひっかかる。何について聞くかの一覧が表示されたので、「戦士について」を選んだ。

戦士に関してか・・・OK。その前にタバコ吸ってもいいかな?」

俺は灰皿をCAN-DOの前に置いた。金田もソファに座って、俺たち二人はCAN-DOと向かい合って座った。

「2年間、日本国防衛庁の管理下のもとに、M調査団マスター調査団の略称。an information and research division about Master)という組織が作られた。メンバーは、国内外の一般人から厳正なテストによって選抜された。彼らの仕事は、マスターに関する情報入手、スパイ行為、及び戦闘全般、最終目的はマスターの殺害及び撲滅にあった。そして、すべての任務は極秘裏のうちに遂行されなくてはならず、もちろんマスター調査団の存在自体も極秘であり、誰にも知られてはいけないことだった。

最先端で、スパイ活動及び戦闘を行うメンバーは戦士と呼ばれた・・・」

CAN-DOは一息ついて、タバコを灰皿で軽く叩いて吸い殻を落とした。

戦士は、高額の報酬で活動していたが、メンバーが思うように集まらない中、半年前の戦いで戦士の多くが命を落とし、リーダーもそのときに殺されてしまった。あれ以来、M調査団の活動は停滞状態だ。

現在動いているメンバーもいるが、給料という形でなく、成功報酬という形に切り替えられた。提供した情報の質と倒した敵次第で報酬は大きく左右されるんだ。なお、ゾンビ族などは上級ゾンビ以外はいくら倒しても報酬は出ない。今は自衛隊から優秀な人材を選抜して、戦闘部隊を再編成し、質より数で勝負しようという作戦にきりかえているらしい。

俺や君などの元戦士は、今は賞金稼ぎだと考えたほうがいい。情報は、よほど有益なものでないと、報酬にはならない。戦闘報酬は、ボスクラスのモンスターか、マスターの直属部下を倒さないと金にはならないだろう。もちろんマスターを倒したら英雄扱いだ。一生遊んでくられるほどの報酬が貰えることは間違いない。

俺のほうは、戦士だった頃の貯金を切り崩している状態だ。マスターの一人であるマスターパペットを追ってはいるんだが、情報も入ってこないうえに、奴の強さだけは知っている。今のままで、一人で倒すことは難しいだろうな」

俺は次に、マスターとは何かを聞いてみた。

「彼らについてはまだ分かっていないことも多い。マスターは5人いる。実は彼らが人間であるかどうかも分かっていない。というのも、彼らは自分たちのことを宇宙人だと言っているんだ。もちろん何の証明もないので、信じているものは少ないが、何回かあった大規模な戦闘でみせた彼らの能力はとても人間のものとは思えない。今は、超能力者説と、マスター自身が主張する宇宙人説の二つがある」

超能力者か・・・。俺は金田を見た。

CAN-DO金田を見た。

「そういえば、あなたは私の命の恩人でしたね。サイキッカーは世界でも数えるほどしか存在しない。戦闘でその力を発揮できる者は数えるほどしかいないでしょう。戦士にもサイキッカーはいたんですが・・・。彼も半年前の戦闘で命を落としました」

マスターパペットについて聞いてみる。

マスターは、5人とも単独行動をしており、バラバラに大都会のどこかに身を潜めている。場所も移動するので特定はできない。マスターパペットは、ゾンビ族を統括するボスだ。ヤツを倒せば、シプヤからゾンビ族は消えるだろう。シプヤのどこかにいると思われているのだが、その場所を知っているゾンビはいない。君が追っている獨讀存美なら知っているかもしれない。それに、獨讀存美を倒せば、相当な賞金が出る」

「君の力では獨讀存美を倒せないのか?CAN-DO

「俺一人では無理だ。・・・もっともだからといって君たちの仲間に入る気はないよ。いや、手柄を横取りしたりするつもりはないから安心したまえ。俺はマスターパペットを倒すことに全力を注いでいるんだ。こいつさえ倒せば、一生生活には困らない。残った4人のマスターも君たちに譲るよ」

CAN-DOは帰り際に、俺にメモを渡した。電話番号が書いてある。

M調査団の連絡先だ。元戦士の君の現況は俺から伝えてある。病院で1年間拘束された後に記憶を失ったことをね。君は元戦士の賞金稼ぎとして登録されているよ。情報提供料や敵の賞金のことも詳しく聞いてみるといいだろう」

玄関口で、最後に聞いてみた。

「色々教えてもらったうえに悪いんだが、街のチンピラから「ゾンビ幽霊を怖がる」という情報を得たんだ。何か分からないかな」

CAN-DOは表情ひとつ変えなかった。

「なるほど。そこまで分かったか。マスターパペットを倒すことには直接的な関係がないから調査はしていなかったんだが。幽霊と対話して、彼らの世界とこの世界との橋渡しをすることができる能力を持った人間がいることは知っているかな?」

イタコか?」

「ご名答。・・・だが、イタコゾンビ族と戦う上で絶大な力を発揮することは前から分かっていたことなんだ。ただでさえ、数人しかいなかった霊能力のあるイタコを引っ張りだして戦わせた結果、イタコは全滅してしまった。今からイタコを探しても骨折り損なだけさ。少なくとも戦える能力を持ったイタコはもうどこにもいない」

なんてことだ。唯一の手がかりがあっさりと否定されてしまった。

「だが」

CAN-DOは続けた。

綾尋千里という絶大な霊能力を持つイタコがいた。その能力ゆえに彼女は戦士になり、多数のゾンビを倒し、マスターパペットまで迫ったのだが、マスターパペットただひとりに、仲間二人と共に殺されてしまったんだ。仲間二人は優秀な戦士だったが、綾尋千里イタコ以外の戦闘能力は未熟だった。少なくともパペットがゾンビ族でないことは分かっている。ヤツの能力は謎だが、相当実力を持った戦士が、綿密な戦略をたてて戦わない限り勝てないだろう」

「でも君はひとりでマスターを倒そうと?」

「充分な情報があれば、倒せると確信している。今はまだマスターの能力が分かっていない。それが分かれば、色々と戦略もたてられる。集団で行動するより奴らに感づかれにくいし、不意打ちもくらわせやすい。どんな手を使ってでもマスターを倒せればいいんだ。ちなみにマスターパペットひとりで、賞金は1億R.以上だ。値段もジワジワと上がっていて、今が倒し時だが、グズグズしていると政府の新しい部隊に先を越されるかもしれない。」

「俺たちと協力する気はないと?」

「協力なら今しているだろう。仲間になる気はないよ。一人で動くことに慣れているしね。君もそうだと思ったが・・・。記憶を失ってしまってからは一人で行動できなくなってしまったのかな。ま、戦力を増やしたところで、賞金が減るだけだからね」

俺は黙ってしまった。CAN-DOの戦闘能力がどの程度かは知らないが、今の俺や金田レベルを考えると、彼を仲間にしても足を引っ張るだけだろう。

「あ、大切なことを言い忘れていた。綾尋千里の話に戻るが、彼女は死ぬ間際に自分の霊を特殊な術を施した箱に保管した。この箱は力ずくで開けることはできず、綾尋千里の霊自身が認めた相手を前にした時だけ自らその封印を解くという」

俺はつばを飲み込んだ。

「その箱はどこに?」

「残念ながら、行方は分からない。形見だから誰かが大事に保管しているんじゃないかな」

結局探さねばならないのか。

「その箱の名前だけでも分からないだろうか」

霊凍庫だ」




スーパーリアルクエストQ&A会議室

スーパーリアルクエストQ&A?

2004-05-09

[]-スーパーリアルクエスト- その11「TVニュース」

待ちに待った「美少女天使リアルファイトKOエンジェルズ」が始まる時間だ。

ゲーム内時間で土曜日の夜20時に始まるので、19時半にはもうテレビの前に座って待っている状態である。もっとも、リアルタイムで見逃しても、ビデオ録画を自動的にしていることになっているので、放送済みの回は後からいくらでも見直せるのだが。少しでも早く見たいのがファンの心理というものだ。

ちなみにテレビの横の棚の上には、セティの5分の1フィギュアを飾ってある。

ランちゃん今日は活躍するかなーっ。楽しみだなあ~」

期待に目を輝かせているのは、金田満である。こいつも実はKOエンジェルズのファンだったらしい。もっともそのことは俺がフィギュアなどのグッズを買ってから発覚したことなので、俺が番組に関心を示さなかったら、今後ゲーム内でKOエンジェルズの出番はなかったかも知れないのだ。

ランのファンらしいが、こればかりは趣味を疑う。KOエンジェルズに不細工はいないが、美形揃いのエンジェルズの中ではランはアクセント的な存在というか、ギャグ担当というか、花より団子な食いしんぼキャラでもあり、要するに、はっきり言って明らかに太っている。

俺は車椅子に座った金田をチラリと見た。

金田は、ばくだんいしの攻撃で脳に傷害を負って半身不随になってから、下半身と右半身をほとんど動かすことができなくなった。左手だけで車椅子をこいでいるのだ。しかし変わりにサイキック能力を身につけ、軽いものは動かせるため、身の回りのことはすべて自分でやっているらしい。風呂で溺れても、サイキックで風呂を栓を抜くことができるなら問題ないだろう。

「時刻は19時50分になりました。夜のニュースをお伝えします。今日夕方17時頃、シプヤ美弥升坂にあるコンビニエンスストア、セプンイレプンで爆発がありました。現場にいたミルク白井刑事の証言によりますと、強盗が店員から現金を奪って逃走しようとしたところ、偶然店内にいたミルク刑事が、強盗を取り押さえようとしました。観念した強盗は、体に巻き付けた大量の爆薬に火を点けて、爆発させたということです。この事件による死亡者は強盗犯一名で、負傷者は8名。重傷者はいませんでした。ミルク刑事の証言です」

「どうも、ミルク・シロ・コップことミルク白井です。私が彼を現行犯逮捕しようとしたところ、いきなり自爆されました。店内にはもう一人客がいたのですが、彼は無傷だったためその場を去りました。強盗犯は、顔も全身も隠していたんですが、格闘をした際に被っていた仮面が壊れまして、その顔は・・・なんといいますが、その・・・言い方は悪いんですが、死人のような顔・・・でしょうか。顔全体に酷い怪我の後があり、人相も全く分かりませんで、表情も全くないように見えたのでそう感じたのかもしれません。そんな印象でした。ちなみに片言でしたが日本語を話していました」

「・・・奇妙なことに、強盗の死体を調べたところ、二人分のDNAが見つかり、それぞれ死後一週間以上経っているという鑑定結果が出されました。しかしミルク刑事とコンビニの店員によれば、強盗犯は確実に1名だったということです。シプヤで街頭インタビューをしたところ、帽子と仮面とロングコートという今回の強盗の格好と、同じような服装をした人物の目撃証言が多数寄せられました。それらの目撃証言は、日時も場所もバラバラで、警察ではなんらかの組織が関係しているという見方もあるようです。なお、シプヤの連続飛び降り事件や行方不明事件との関連に関しても捜査をすすめていくということです。以上夜のニュースをお伝えしました」


KOエンジェルズが始まった。第7話の今日はポッチャー欄をフューチャリングした内容らしい。女相撲部の練習風景から始まり、いつものように宇宙人の来襲。エンジェルズ達が集まり、変身して戦い、今日戦闘で活躍するのが、ランのようである。

「うおーっ!ランちゃん萌えー!」

金田が吠える。俺も、熱い戦いに夢中になっていた。

ちなみに、TV番組に出てくる人物も背景も全てゲーム内と同じフルポリゴンで構成されている。KOエンジェルズのメンバーの顔などは非常に凝っていて、パッと見本物の人間のように見えるくらいである。それにポリゴン描写になれてくると、次第に違和感は薄れていき、それが自然で当たり前の現実のように受け止められるようになってくるから不思議だ。モーションキャプチャーなどを駆使して作られているのだと思うが、セティの顔などは誰かをモデルにして作られているのだろうか。あるいは現実のアイドルをそっくりそのまま再現しようとしている可能性もある。俺の知らない若いアイドルはいくらでもいるから、セティそっくりな人間が存在していてもおかしくはない。

KOエンジェルズのメンバーは、5人とも武道は万能で総合格闘技の一流ファイターだが、それぞれ違う部活に所属しているために、最も得意とする分野はバラバラである。

セブンティーンセティ)は空手メルシー・ボクトゥメル)は剣道スマック洋子ヨーコ)は柔道。ポッチャー欄ラン)は女相撲。戸橋谷弓子(とばしやゆみこ=ユミ)は弓道。

最初は、学内で起こる様々な事件や紛争、喧嘩などの解決や仲裁役として活躍していたが、今は方向性が変わって、格闘好きな宇宙人とバトルするという展開になっている。宇宙人には多様な身体的特徴を持ったタイプが存在するために、スポーツ界全般において、人間と競い合ったり、大会に参加したりすることを認められていない。宇宙人達の間では、格闘技がブームであり、人間と戦ってその腕を確かめたい宇宙人が、格闘技のエキスパートであるKOエンジェルズに戦いを挑んでくるというわけである。

「今回の宇宙人はまたへんちくりんなやつだなあー」

金田の言うとおり、毎回宇宙人は個性的なやつばかりが出てくるが、今回もインパクトのあるやつである。首が3本あって、手が8本。しかし足は2本で人間のように立って歩いている。手が多いぶん、格闘には有利かもしれないぞ。

「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」

奇妙な叫び声と共に、パンチが繰り出される。8本同時に繰り出されたのでは避けようがない。それを食らったメンバーは後ろにはじきとばされた。勇敢に立ち向かったセティでさえ、あっさりと吹っ飛んでしまった。

「私にまかせて!」

ポッチャー欄の声だ。

ラン!どうするつもり!」

ヨーコは心配そうだ。

ランは、相撲のしきりのように前に両手をつくと、宇宙人に向かって突進した。

その勢いは、宇宙人のパンチでも止めることはできず、ついにはランが宇宙人の懐に入って、押し出しを始めた。

後ろの大樹に衝突!宇宙人はヤケクソ気味に左右からパンチを繰り出すが、体を締め付けられているためにそれほどの威力はない。しかし、ランの体が赤く腫れ上がり始めるほどの威力である。

ユミ!今よ!」

ユミが狙いを定めて弓を引いた。

「弓術必殺技!遠的仁の道!」

連続して放った3本の矢が、3つの頭の額に見事に的中した。

「マイッタァァァーーーー!」

宇宙人は爆発して消えた。死んだわけでない。KOエンジェルズ達の必殺技は、相手を殺すためのものではなく、相手に負けを認めさせるためのものである。必殺技をくらった相手は、負けを認めたことでその場から消滅し、死力を尽くして戦ったという足感とともに、見慣れたベッドの上で目を覚ますのだ。

「いやー。良かったなあー!なあ、テツ!」

金田は大足の様子である。俺としては、今回はセティの活躍がほとんどなかったので少々物足りなかったが、まあ次回に期待するとしよう。

ピンポーン

ベルが鳴った。

「俺が出る」

ミルク刑事かもしれない。俺はすかさず立ち上がった。

真奈芽は今日は出かけていて遅くなるらしいので、真奈芽ではないだろう。

2004-05-05

[]-スーパーリアルクエスト- その10「ミルク刑事

ゾンビ幽霊を怖がる。

この情報を元に、俺はシプヤ中を歩き回った。ちなみにレベル7である。

色々なところを歩き回っている間に、不良や弱いゾンビから絡まれることがある。逃げずにリアルファイトで倒しているうちに自然にレベルは上がっていった。幽霊情報とは別に、強い仲間もスカウトしたい。

倒したチーマーに、強い奴の情報を尋ねると、シプヤにあるキックボクシングジムに行けば、強い格闘家はいるだろうという話だった。

「キックボクシングジムがあるな」

俺は薄汚れたビルを見上げた。3階の窓から中で何人かが稽古をしているのが見える。

「見学かい?」

足を踏み入れた俺に、インストラクターのような印象の男が近づいてきた。

「えーと、その・・・強い人を探しに・・・」

「ここには強いやつはいっぱいいるよ。まあ一番強いやつはちょうどさっき出て行ったばかりだから、タイミング悪かったね。」

「そいつの名前は?」

インストラクターはやや怪訝な表情になった。

「君、ミルク刑事のファン?まあ、前大会で優勝したからねえ」

「ええ、そのミルク選手のファンなんですよ。前の大会でファンになりました。彼のサイン貰おうかなと思って」

「出て行ったばかりだから、まだ会えるかもよ。美弥升坂の方角に行ってると思うよ」

俺は一礼すると、美弥升坂へ走った。

人混みの中から首一つ飛び出た後ろ姿を発見した。185はあるだろう。スポーツバッグを肩から提げている。俺はそーっと近づいていった。

男はセプンイレプンに入っていった。俺も続いて入店する。

男は真っ直ぐに飲み物コーナーに向かうと、1リットルの牛乳を手にとってすぐにレジに向かった。俺は雑誌コーナーで、「バニラ」を手に取った。開くと、ちょうどセティの写真が掲載されたページだった。

男は、コンビニを出たところで牛乳の一気飲みを始めた。ゴキュゴキュという音が聞こえてきそうな勢いだ。

そんな中、一見して明らかに怪しい客がスッと入店してきたかと思うと、店員に銃口を向けて濁って嗄れた聞き取りにくい声で命令していた。

「金・・・出セ。早く・・・シロ」

そいつの後ろ姿は、黒いコート姿に黒い帽子をかぶり、中肉中背。これで仮面を被っていたらこいつは・・・。

と思っていると、そいつが店内をすばやく見回した。

ゾンビか・・・」

俺は興味がないフリをして、雑誌に目を落としていることにした。ゾンビ族が、上からの命令(殆どのゾンビ族には上が何者なのかを知らないが)で、様々な手を使って資金を稼いでいるのは知っている。業務内容も真っ当に経営している店も存在するが、多くの店舗はあくどいことをやって荒稼ぎしていると聞く。もちろん露骨な犯罪行為も行っているが、夜に目立たない程度にやる程度だろう。ぼったくり、飲み屋、用心棒、殺し屋、架空請求、ひったくり、スリ、など噂を聞いたことがある悪事だけでもいとまがない。まともなところでは、スタントマンで稼ごうとしたゾンビもいたというが、これは本人が死んでしまい金は受け取れなかったという話だ。火で全身を覆われた状態で数十秒耐えるという仕事だったが、消化が間に合わず脳髄まで火あぶりになってしまったらしい。もっとも仕事内容のおかげで、彼の正体はバレなかったらしいが。

それにしても、堂々と強盗をやるとは・・・。よほど厳しい資金ノルマが課せられているのだろう。ゾンビも楽じゃない。短い間だったが仲間だったこともあるので、下っ端ゾンビの辛さは全く分からないわけではない。下っ端ゾンビの多くは人間のレベルの知能を有しておらず、たとえ有していたとしても、その知能レベルは素材となった脳髄の状態に大きく左右される。分かっていることは、記憶が残っていたとしても一度死んだ人間の人格が再現されることは絶対にないということだ。彼らゾンビ族は、全く新しい邪悪な気質を持った存在として作り出される。生前の記憶に行動が左右されることはあるが、生前の人格は完全に失われており、魂のない肉体にそれが復活することはあり得ないらしい。


「早く・・・シろ!殺す・・・ゾ!」

レジから金をかき集めた店員が、ゾンビが手にした袋に金を入れた。

そそくさと店を出て行くゾンビ

だが、自動ドアで開いているはずのドアにぶち当たり、店内に転倒しながら戻ってきた。

まだ牛乳を片手に持ったまま、入り口に立ちはだかる男がいる。

「刑事だ。現行犯でお前を逮捕する」

牛乳を飲み干して、パックを投げ捨てると、懐から警察手帳を取り出した。

「あヒャ!そこ・・・ドケ!オレ・・・逃げる!」

「抵抗するなら・・・」

脇をすり抜けようとするゾンビに、刑事は素早い左の膝蹴りを放った。

それはゾンビの脇腹に突き刺ささり、ゾンビはまた後ろに転がった。

「苦しまないとは・・・よほど腹が頑丈な奴か」

落ち着き払った様子で、ゾンビのほうに歩み寄る刑事。

ゾンビはすぐに立ち上がり、攻撃を繰り出してきた。

ゾンビパッ・・・オゴシェッ!」

ゾンビのパンチが届くよりずっと速く、刑事のストレートがゾンビの仮面を派手に打ち砕いた。中の顔が露わになる。なんとも形容しがたい、潰れて目も鼻もまともに認識できないくらい破壊された顔だ。

それを見て、刑事は一瞬怯んだ。

「過去に辛いことがあったのかもしれないが、強盗をしていい理由にはならないぞ」

どうやらこの刑事はゾンビの存在を知らないようだ。

「ソレ以上・・・近づく・・・自爆・・・スる」

ゾンビがコートを広げると、体に大量の爆薬が巻かれていた。店員が悲鳴を上げて一目散に店を飛び出して行った。俺も成り行きを見つつも、いつでも逃げられるように入り口付近に立っていた。

「お、おい!早まるな!たかが強盗で死ぬことはないだろう。考え直そうよ、な。人生まだやり直せる・・・」

刑事はそう言いながらもジリジリと後ずさっていた。

「イヤ・・・今決めタ・・・お前・・・道連れ」

言葉にならない叫びをあげながら、刑事が俺の方にスッ飛んでくる。

「邪魔だどけッ!」

刑事は俺に思い切りタックルし、共にコンビニの外に転がり出た。

その瞬間、耳をつんざくような爆発音がして、コンビニのあらゆるガラスというガラスが凶器となって歩道にいた人々を襲った。俺は運良く、刑事の下敷きになっていたので完全に無傷のようだった。

盾である刑事から這い出て辺りを見回すと、コンビニは建物自体はそこにあったが、中は壊滅状態になっていた。爆風と窓ガラスで負傷した人が、何人か路上にうずくまっている。

刑事がヨロヨロと体を起こした。ロングコートにガラスが大量に突き刺さっているが、体にまでは達しなかったようだ。爆発と同時に後頭部で手をクロスさせていたので、頭部も無傷に見える。

「くそー。あいつ死んでしまったのか・・・。飛び降り自殺といい、最近おかしいぞ・・・」

俺は、ぼやく刑事の肩をそっと叩いた。

「あいつはゾンビですよ。元から死んでいたんです。ミルク刑事

刑事は怪しい者を見る目で俺を見た。

「なんで俺の名前を知っている。お前は誰だ」

「はじめまして、テツと言います。あなたと同じように、東京の悪と戦う者です。でも警察じゃありません、強いて言えば「戦士」ですかね」

「怪しい奴だな。ともあれ、お前も事件の重要参考人として署までついてきてもらおうか」

それはまずい。別にやましいところはないが、ミルク刑事ゾンビの存在を知らないくらいだから、署でそんな話をしたら事態は悪い方に進むだけだろう。

「強い人間を探しているんです。共にゾンビと戦うための」

俺はメモ帳金田真奈芽のマンションの電話番号を書いて渡した。

「私は夜はここに居ます。電話してください」

それだけ伝えると、俺は日が落ちかけた夕暮れの街に姿をくらませた。

2004-05-04

[]-スーパーリアルクエスト- その9「チーマー・ゴロウ」

ガン飛ばし、カツ上げ・・・レベル5の俺にはもはや全く効かない。

だが、チーマーのガン飛ばしにわざを動きを止めて、効いたフリをした。

「ゴロウさん、こいつですよ。俺のダチをやったやつは」

「あんだぁ~?ゴロウさん、こ~いつビビってやすぜぃ。ケチョンケチョンにしてやりましょう」

しかし、ゴロウと呼ばれた男は黙って俺の様子をうかがっていた。身長は190cmはあるだろうか、ダボダボの服を着ているが、その下に筋肉の付いた肉体が隠されていることは容易に想像ができる。

「ここじゃ、場所が悪い。人気のないところへいくぞ」

俺は、10人近くいるチーマーに囲まれて地下鉄への階段を下りていった。

一人では地下鉄の階段に侵入できなかったので、助かる。しかし、まだ5人程度のチーマーしか倒していない俺に、チンピラとはいえ10人同時に相手にできるだろうか。

「誰かに駅員を呼ばれるかもしれねえ。早めにやるぞ」

ポケットに手を入れたままつぶやくようにそう言うと、ゴロウは顎を動かした。

それが戦闘開始の合図のようだった。

丸腰の俺に、総勢9名のチーマーが襲いかかってくる。

俺は行き止まりを背にしているので、囲まれる心配はない。フットワークで奴らの打撃をかわす。やつらも後ろの壁に手足をぶつけるのを恐れてか、威力のある打撃は出してこない。

「ぎゃああっ。いてえええええ」

一人の回し蹴りが俺の腰に命中した。だが悲鳴をあげているのは蹴った本人だ。

上着の下に隠した鉄パイプに、奴のすねがモロに当たったのだ。俺は、数時間前に倒したチーマー連中から奪った鉄パイプを取り出して構えた。

「こ、こいつ武器持ってやがるぞ!」

チーマー達はいったん俺から離れると、各々の武器を取り出した。どうやらナイフがメインのようだ。

「ガン飛ばし!」

すさまじい形相で連中を睨めると、そのおよそ半数の動きが止まった。

今がチャンスだ。

「鉄棒遊戯・激闘10廻転!」

目にも止まらぬ速さで、鉄パイプをブン回す。ガン飛ばしで怯んで動きを止めていた奴らがひとたまりもなく吹っ飛んだ。残ったのは5人。それも、位置はかなりバラけている。

「鉄棒遊戯・脳天直撃!」

一人目。

「鉄棒遊戯・金的衝上!」

二人目。

「鉄棒遊戯・顎砕突!」

三人目。

「鉄棒遊戯・鳩尾突!」

四人目。

五人目は背を向けて逃げようとしている。

「鉄棒遊戯・後頭部ドリル!」

鉄パイプと一緒に、体ごとドリルのように回転させながら、一直線に相手に突進する技だ。

後頭部に見事命中し、そいつは一瞬にして意識を失い、そのままゴロウの足元まで吹っ飛んでいった。

俺は起きあがろうとする残りの四人に、起き上がる前にとどめをさした。

「やるじゃねえか・・・。それだけの不良技を身につけているとはな。」

ゴロウは、武器を取り出した。鉄球だ。こんな体格をしたやつにこんなものを振り回されてはたまったものではない。当たったら一撃でやられるだろう。

唸りを上げて鉄球が回転を始める。横から来ると思って上下に避けるフットワークをしていたが、その予想は裏切られた。いきなり廻っていた鉄球が直線的にこっちに飛んできたのだ。

俺はかろうじて、右に避けた。それは予想以上に伸びて、背後の壁を破壊した。

この隙を逃す手はない。こっちはスピードで勝負だ。鉄パイプと共に奴の懐に飛び込んだ。

「鉄棒遊戯・顎砕突!」

しかし、奴は左手でそれを振り払った。バカな。やつの服が破れ、手を覆った鉄製のレガースが露わになる。なるほど、全身を防具で覆っているというわけか。

「不良(ヤンキー)技の最高峰で逝かせてやる。鉄球奥義・魔球弾!」

今度はひとつではない。五つほどの鉄球が飛んできて、避ける隙間がない。本物はひとつだけに違いない。俺はカマをかけて、右側に飛んだ。二つの鉄球が俺の体をすり抜けた。どうやら正解だったようだ。

「まぐれは続かんぞ。それっ!鉄球奥義・魔球弾!」

今度は下に滑り込むように避ける。仰向けになった俺の鼻をスレスレに鉄球が飛んでいく。

続けざまに、鉄球が振下ろされる。俺は転がりながらその攻撃を避けた。地面が破壊されていく。

転がりながら俺は少しずつ相手との距離を縮めていき、ある程度まで近づいたところで跳ね起きた。この距離では近すぎて、鉄球を飛ばすことはできないだろう。

ゴロウは、チェーンを短く持って、鉄球を拳代わりにブン回した。こんな遅い拳は誰だって避けられる、鉄球の勢いに体を持って行かれてバランスを崩したゴロウの背後にまわり込む。

ゾンビ技・背面腐臭羽交締!」

鉄パイプバージョンだ。鉄パイプで相手の喉を強烈に締め上げながら、足を相手の胴体に絡ませる。こいつが落ちるのは時間の問題だ。

「参った・・・。情報を教えるから助けてくれ・・・」

俺は相手が話せる程度まで、力を緩めた。

「価値のある情報ならな」

ゾンビ技が使えるとはな・・・。俺は小遣い稼ぎにあいつらに協力したことがある。巷で話題になっている飛び降り事件があるだろう。あれはゾンビ達が殺しているんだ」

「そんなことはもう知っているよ」

「ま、待ってくれ・・・。ゾンビ族シプヤを拠点に東京に勢力を広げていることはまだ世間的には知られていない。それに関して情報を得たり、疑問を持った奴らがアクションを起こす前に呼び出して、殺しているんだ。俺はその情報収集や、呼び出し係をやっていたんだ」

「情報というのはそれだけか?」

俺は鉄パイプを握る腕に力を入れた。

「ま、まだ・・・ある・・・。ゾンビ族は操られているだけの兵士のような存在で、裏に強大な存在がいるらしい。人間ではないという噂もあるけど、俺はそこまでは知らない・・・それから・・・」

「それから?」

ゾンビ族は人間の死体から作られた存在で、そのパーツになった人間は当然死んでいる。死体から取り出された脳髄や脊髄が奴らの新たな命ともいえるものだが、その本来の持ち主である人間は死んでいるわけで・・・」

「要点を言え!」

廻りに人だかりができており、今にも駅員が来そうな雰囲気だ。

「ゆう・・・れい・・・。ゾンビ・・・怖がる・・・」

「おい!何をしている!」

しまった。駅員がきた。一刻の猶予もない。俺はゴロウを駅員に向けて押した。

駅員はゴロウの下敷きになってもがいている。

その隙に、階段を駆け上がり、雑踏の中に紛れ込むことに成功した。

2004-05-02

[]-スーパーリアルクエスト- その7「はてなダイアリー

実は未だにセーブの方法が分からない。ゲームオーバーになってないからいいようなものの、このままでは不安がつのるばかりだ。

俺は、金田真奈芽の自宅内をくまなく調べた。平日の昼間に真奈芽が会社に行っている間に、真奈芽の部屋もくまなく調べた。

居間の電話の下に、電話帳があるのに気づいて開いてみた。

「あ」から順番に見ていく・・・。

「は」。はてな株式会社はてなというのがある。

はてなダイアリーというのを知っているか?」と金田が言っていたのを思い出した。電話してみることにした。どうやらシプヤに会社があるらしい。

「はい、株式会社はてなのコンドウです」

「こんにちは、はてなダイアリーというものについて聞きたいのですが」

「はい。はてなダイアリーはWEB上の当サイトで登録していただければ、無料でご利用頂ける日記のサービスです」

「記録がつけられるということですね?」

「はい、そうです」

「つまり、セーブができるということですよね」

「はい、記録をセーブということもできると思います」

俺はURLを聞いて、電話を切った。すぐに真奈芽のパソコンに向かう。

壁紙はジャミーズとかいう男性アイドル集団のものだ。

URLを入力、登録を済ませ、さっそく日記を付けた。

「ふう、セーブ完了」

俺は安心感とともに、PCの電源を切った。

さて、獨讀存美から逃げたはいいものの、次に具体的にどういった行動に出るかはまったく決まっていない。俺はとりあえず今使える技を強化することと、基礎体力を上げてレベル上げを目指すことにした。

まずは腕立て伏せと腹筋をそれぞれ30回、スクワットを100回。それから習得したゾンビ族の技の鍛錬だ。

ゾンビパンチ!ゾンッゾンッゾーン!ゾンッゾンッゾーン!」

技を出せば出すほど、キレがよくなっていく気がする。

ゾーンディフェンス!」

防御も大切だ。攻撃からスムーズに防御の姿勢に移行できなければならない。

この構えは、ボクシングの防御の姿勢によく似ている。頭部やボディへの打撃を防ぐ最も有効な防御姿勢だ。

腐り手落とし!」

手刀を鋭く振り落とす。

腐臭羽交締(ふゅしゅうはがいじめ!)」

正面から相手に突進し、相手に抱きついてさばおりをする。力が弱いゾンビ族でも、強烈な腐臭で相手をノックダウンすることも可能だ。俺がやる場合は、相手の動きを止めることが第一目的になるだろう。

ゾンビ族は基本的に武器や防具を使用しない。させてもらえないだけかもしれないが、このことは、ゾンビ族の技が肉体技が中心であることと関係している。

肉を切らせて骨を断つ。

ゾンビ族から学んだことだ。俺の場合は、強度のある防具を身につけて始めて、ゾンビ技の真価を発揮させることができるだろう。

「セイヤーッ!屍ローリングサンダー!」

HPの減りが早い。もうリアルゴールデンはとっくの昔に使い尽くしている。

HPが20を切った時点で、俺は冷蔵庫を覗いて食えそうなものを物色することにした。

「ふむ・・・。色々あるな。あ、生卵があるな」

生卵を3つ割って、一気飲みする。

HPが30回復した。まずまずだ。しかしこれはHPよりもESPの回復に効果がありそうな気がする。HPの回復はやはり即効性のあるドリンク系が効果的だ。俺はダイエットペプシを一気飲みした。HPは全快。リアルゴールデンには劣るか。

「あー、疲れたー。まだ夕方だけど寝るか」

俺はゴロリとソファに横たわり、テレビを点けた。

元気一杯の主題歌が流れ、特撮モノの番組が始まる。

俺は新聞のテレビ欄をチェックした。『美少女天使リアルファイトKOエンジェルズ』とある。ケーオーではなく、ノックアウトエンジェルズというふりがなが振ってある。

ミニスカートをひるがえして、見せパンツを惜しげもなくさらしている。俺は思わず夢中になって見入ってしまった。

リアルファイトでノックアウトよ!セブンティーン股技顔挟絞殺!」

おおっ!どこかの格闘ゲームで見たことがあるような技だが、これは強烈な技だ。相手の顔面を両足で挟みつけて、首を絞めて落とす。あるいは力があれば首の骨を折れるかもしれない。

このセブンティーン(愛称はセティ)という娘が一番カワイイなあ。どうやら名前のとおり17歳らしい。

番組の最後にセブンティーンを始め、KOエンジェルズ5人のフィギュアの通信販売の広告をやっていた。

俺は立ち上がり、また真奈芽のPCを立ち上げた。

http://www.ko~angels.com/

ふむ。セティの5分の1フィギュアは25000R.か。

死体運びで稼いだ金が15万残っている。先日の生ける屍乱入時の修理代を引いて残った額だ。現状で、装備品やアイテムが皆無なので、余裕があるのかどうか分からないが、フィギュアを買う金はあるだろう。

「ポチっとな」

この住所宛に料金着払いで購入。

将来レアアイテムになるかもしれん。俺はゲーム内でのアイテム収集には結構こだわるほうなのだ。買えるものは買える時に買って、大事にとっておくことが大切だ。

ついでに、セブンティーン役をしているアイドル女優のことも調べた。名前は星光奈々子(ほしひかりななこ)といい、現役の女子高生。ティーンズモデルというカテゴリに属するアイドルで、バニラという十代向けのファッション雑誌専属のモデルらしい。ゲーム内にもGoogleがあり、星光奈々子でググると少ないながらも、商品が出てきた。俺は買えるモノは全部注文しておいた。

「ムフフ・・・これで明後日には、フィギュアと写真集とポスターとDVDが届くぞ」

ついでに無料のメールアドレスを取得しておいた。今後、情報収集に活用できるかもしれない。

そうするうちに、金田満が帰ってきた。情報収集をするといっていたがどこへ行っていたのだろう。車椅子の単独行動だからそう遠出ができるとも思えないが。

夕飯時になって金田真奈芽が帰ってきた。今日は平穏無事に一日が終わりそうだ。


[]-スーパーリアルクエスト- その8「リアルプレイヤー」

昼は外に出て、情報収集に努めたが、誰に話しかけても何の進展もなかった。

ヒューマン科学研究所に行ったら、ビルの入り口付近にすでにゾンビ達が立っていて近づけないし、ただ闇雲に歩き回っているだけでは、殺人現場にも巡り合えない。俺が部下をやらされていた時に拠点となっていたホテルビゾンシプヤにも行ってみた。名前から想像がつくと思うが、ラブホテルだ。実質上の経営はゾンビ族が行っている。大通りから小さな路地に入り、人通りの少ない路地をしばらく歩くと、「休憩5000R. 宿泊8000R.~」という看板が見えてくる。やはり警備が厳しいようだ。ビルの入り口に周囲を警戒している様子のゾンビが3人いる。思いきって近づいていったら気づかれて追いかけられた。追跡を振り切って、なんとか人混みに逃げ込んだ。一人で乗り込んでいって勝てる状況ではない。

夕方からは、空き地で技を鍛えた。腕立て伏せをしている最中に、ファンファーレが鳴り響き、レベルが4になったことが分かった。

このまま何日もかけてコツコツと鍛錬によってレベルを上げて行くやり方でいいのだろうか、これではいつになったら獨讀存美を倒せるのか分かったものではない。

首を傾げながら、マンションに戻り(合い鍵は貰ってある)、一息ついていると荷物が来た。

フィギュアとその他色々だ。

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!

それらのアイテムは「だいじなアイテム」欄で確認できた。

俺は時間をかけてはてなダイアリーを書いた。ゲーム機にはキーボードも付けられるので、いざ長文を打ちたい時に役に立つ。ポリゴンの俺がPCに向かって、現実世界と同じようなノリで日記を書いている。不思議な感じもするが、ゲーム内でPCに向かっている主人公である俺と、現実世界でテレビ画面に向かってキーボードを叩いている俺というのは、こういう場面においては100%同一人物なのだ。戦ったり、会話したりしている主人公には感情移入はしているものの、必ずしも俺ではない。しかし自由に長文を書いている主人公なら、まさしく俺以外の何者でもない。そこには一切の制限も干渉もない。ネットゲームでチャットをしている時の感覚と同じだ。

セブンティーンのフィギュアはパンティまでよく出来ている・・・」と。

細かいことまで記録を付ける俺。

「テツさん!メールがきたよ!」

星光奈々子、もといセティの声。メーラーにセティの声を設定しておいたのだ。

誰にもメールを出してないのに、メールが来た。ゲームも行き詰まっている。これはゲームの進行に関係のあるイベント関係に違いない。


From: フロウ <flow@real.co.jp>

件名:はじめまして

テツさん。はじめまして。

はてなダイアリーであなたの日記を見ました。僕はプレイヤーのフロウと言います。

あなたの日記を見つけるまでは、このゲームがネット対応だってことを知らなかったけど、僕はネットに接続してるから不思議ではないことでした。

あなたはレベルが4で、獨讀存美とかいうモンスターを倒す手前でつまづいているということですよね。実は僕も詰まってるんです。もう長いこと街を歩いてるんだけど、先に進めません。ちなみに戦闘でレベルを上げるポイントを知っていますよ。自己鍛錬でもレベルは上がるけど、戦闘のほうが早いですよ。ともあれ、返事待ってます。これ読んだらすぐに返事くれるとありがたいです。しばらく待ってみます。

俺は驚きのあまり、テレビ画面の前でしばらく固まっていた。・・・言われてみれば、一応ネットに常時接続させているから、ネットに対応していればプレイヤー同士の交流があってもおかしくはない。プレイヤーが協力しあうことで、道が開けるのがネットゲームというものだ。このフロウとかいうやつは色々情報を知っている様子だ。現時点ではこいつがプレイヤーであるという確証はない。ゲーム内のイベントの一環である可能性もある。だが、俺が返事を書いて、その内容に応じた返事が来たらフロウは間違いなくプレイヤーだということになる。俺はものすごい勢いで返事を書いた。

フロウさん。メールありがとうございます。

私もネット対応だということに驚いています。ただ疑うつもりではないんですが、プレイヤーであるという証明になるようなことを書いて貰えませんか。最近現実世界で起こった社会的出来事とか。例えば、ミルコがまさかのKO負けをした、とか。

現実の時間で待ち合わせをしませんか、あるいは文章でしかやり取りができないという可能性も考えられますよね。実際に会えれば色々協力できそうですし。もっともチャット機能があるのかどうかすら分かりませんが。時間はそちらの都合をお教えください。

送信してから30分待った。長い30分だった。

「テツさん!メールがきたよ!」

From: フロウ <flow@real.co.jp>

件名:会う件について

返事ありがとうございます。安心しました。

驚くのも無理はありませんね。最近あったことですか。そうですねー。ミルコのKO負け、いい例ですね。これだけでも僕のほうの証明になってると思うけど、システム側のコピペかもしれないと思われちゃうかな?じゃあ、今は2004年5月1日夜の11時35分。・・・って時間の取得なんていくらでもできちゃいますね。はてなダイアリーを読ませたいところだけど、僕はプライベートモードにしてるんですよね。あ、そうだ!間違いないのがひとつありました。イラクで人質になった3人のうちの2人が記者会見を行いましたよ。これ以上ないという時事ネタでしょう。

さて、待ち合わせの件なんですが、実は私は明日から旅行に行くんで、しばらくプレイできないのです。ちょっとした情報だけ教えておきます。私はレベル12なんですが、センター街・・・じゃないや、ハンター街ってありますよね。あの通りをブラブラ歩いてると結構な確率で悪い人間が絡んできます。そこで喧嘩を買うんです。モンスターじゃないですよ。ここでモンスターはいたとしても襲いかかってきたことはないです。レベル4だとチーマーには勝てるでしょう。他にはギャング、暴走族、暴力団といます。暴力団に絡まれたら今はまだ逃げたほうがいいでしょう。もう背後にモンスターがついている可能性もありますからね。僕はこの通りだけでレベル7まで上げましたよ。実は他にも戦闘できる場所はあります。電車使えるようになってるなら、使うといいですよ。じゃ、明日の準備もあるんでしばらくの間失礼します。グッドラック!

フロウがプレイヤーであることは分かった。

会えないのは残念だ。でも安易に人に頼ってしまっては面白くなくなるだろうから、これでよかったのかも知れない。彼はコツコツとレベル12まで上げたのだ。俺はレベル4でもう弱音を吐いている。ゲーマー失格だ。気合いを入れ直して頑張ろう。

2004-05-01

[]-スーパーリアルクエスト- その6「刺客」

寝苦しい夜だった。

ベッドの上で寝る記憶・・・。白い天井が記憶に新しいあの病室以来だ。

自分の部屋のベッドで寝た記憶は封印されたままである。

ここは金田真奈芽の家だ。1LDKの賃貸マンションで、去年から一人暮らしをしているらしい。彼女は普通のOLだが、金を貯めて頭金はなんとか払えたらしい。ボロアパートで暮らしていたという金田満は、都内の小綺麗なマンションに目を丸くしていた。車椅子生活になってからは、しばらくはここで世話になることにしたらしい。金田も仲間として戦うのであれば、真奈芽の存在は不可欠だろう。彼女が車椅子を操り、金田の行動をサポートしてはじめて戦闘要員たりうるのではないだろうか。

2週間ずっと、硬いコンクリート床に毛布を敷いて寝ていた俺にとって、スプリングの効いた柔らかいベッドは天国のはずなのだが、いざ眠るとなると、なかなか寝付けないのだ。

ゴロゴロと寝返りを打ち続けていると・・・。

窓のカーテンの向こう側に、人の形をした影が浮かび上がっていた。

そいつは手をめいっぱい広げて、窓の枠ににしがみつくようにしている。

カーテンの隙間からのぞく凶悪な視線と俺の視線がぶつかった。

「あッ!」

と叫んで飛び上がると、ヤツは思い切り窓をぶち割って、中に飛び込んできた。

「ウキャキャキャキョオオオーーーッ!」

正気を失った横顔が、月の光の中に浮かび上がる。

「むぅうっ!もうこの場所をかぎつけるとは!獨讀存美の仲間だな!」

「ソウともヨ!一度仲間になっておきなガラ、ヨクもうらぎっタナ!」

「貴様・・・。ゾンビか?」

俺は金田達が気づいて飛んでくるまで、戦闘を引き延ばそうとできる限る会話を試みることにした。

「ウシャシャシャシャー。オレはシプヤゾンビでもハチホンギゾンビでもないぞぉ~。ましてや腐りきった死体でもなければ腐りはじめた死体でもナイ。かといってマミーでもなければ包帯男でもないぞぉ~~~。さぁ~て、あててミナ~ヨゥ?ウヒィッ」

「うーむ。そうか、ゾンビじゃないのか。見かけはそっくりなんだけどなー。あー、でもむしろ見かけはマミーか?いや、マミーを見たことはないんだけど、マミーって包帯に包まれてるって印象だし。お前も包帯だらけだしなあ」

「バーカ。よーく見ろヨ。包帯はオレの体の40%程度しか包んでいないゼ。ゾンビとかマミーとかいうヨリむしろ腐りきった死体に似てるだロ?さ~て、そろそろわっかるカナ?ホヒェッ」

「うーーーむ。・・・あっ、お前、そんなこといって、実は腐りきった死体なんだろ?オレをだまそうったってそうはいかないぞ?」

「バッカヤロウ!オレがオマエをだまして何になる!ゾンビ族ウソつかない!一度死んだ身だ。いまさらウソなんてつかねーヨ!」

まくしたてた勢いで、モンスターの眼球が飛び出した。ヤツはあわててそれを眼窩に押し込んだ。

「オットット。これでも一応視力はあるんダ。ちゃんとハイッテないと見づらいったらありゃしない」

「うーん、死体かー。死体・・・屍・・・」

「アッ・・・。オシイ!近づいてキタ!」

生ける屍だろ」

俺の声ではなかった。部屋の入り口に車椅子に乗った金田がいた。もちろん車椅子を押しているのは妹である。

「セイカイーーーッ!!!ってイウカ、お前いつの間に仲間をよびやがった!」

「どうでもいいけど、臭いから早く出て行ってくれないかしら」

「アッ!クサイだと!俺が一番気にしてることヲ!」

よくしゃべる屍だ。俺は戦闘の構えに入った。

「テツ!気をつけろよ!生ける屍は腐りきった死体より強いモンスターだ!」

「屍カカト落とし!」

生ける屍の足が振り上げられたかと思うと、俺の肩にカカトが直撃した。

「くせぇっ!」

強烈な腐臭が俺を襲う。俺は吐きそうになった。

「チッ。外したかッ。もうイッチョ!セイッ!」

こいつは死ぬ前は空手家だったのか?するどい蹴りだ。狭い部屋では避けることすらままならない。次の一撃は俺の顔面に直撃した。ヤツの腐った体の一部が俺の顔面に付着する。

「体が破壊されることはワレラにとって恐怖ではないノダ。脳さえ生きていれば、またマーモット博士に体を付けて貰えるからナ」

そう言って、今度は素早いパンチを繰り出し始めた。

「ワンツーワンツー。ゾンッ!ゾンッ!」

本場のゾンビパンチだ。俺のとはキレが違う。

やつのゾンビパンチは徐々に俺の顔面にヒットしはじめた。真奈芽が「右っ!左っ!」とか言ってるが、んな言葉はこのパンチのスピードの前には意味がない。

「ビーーーッ!」

俺の頬が切れて鮮血が吹き出した。

強烈なストレートだ。

「いくゾ!ゾンビ百烈パンチ!ゾンゾンゾンゾンゾンゾンゾンゾンゾン!」

目にもとまらぬジャブを避けるのが精一杯だ。反撃ができる隙がまったくない。

「ビーーーーーーーッ!!!」

いかん!右ストレートを避けた直後に、左フックが飛んできた!最初からこっちを狙っていたのだ!

フックは俺の鼻柱に斜めからえぐるように直撃し、俺は吹っ飛び壁に激突した。

「・・・あれ?そんなに痛くないな」

「バカ!テツ!俺が止めたんだよ!お前は寸止めのパンチの勢いで飛んだだけだ!」

金田が叫んでいた。

「とかいってるうちにヤツが動き出しちまうから、はやくしとめろ!」

「お、おうっ」

オンドゥルルラギッタンディスカー!!!」

生ける屍が何かを必死に叫んでいる。

オンドゥルルラギッタンディスカー!!!!!」

「ん、何を言ってるんだ?やられる前から断末魔の叫びか?」

「んなことどうでもいいからはやくしろ!もうこれ以上止めていられない!」

なぜか心をかき乱されるような気持ちがしたのだが、ここはとどめを刺すところだ。

俺は大きく息を吸い込んだ。

「必殺!屍ローリングサンダー!!!」

左足を軸にして、一回転して右足のカカトを相手のみぞおちに直撃させる。要するに後ろ回し蹴りだ。

「アッ!それオレの必殺技!どうシテッ!?」

生ける屍はそう叫びながら窓の向こう側に吹っ飛んでいった。

ここは7階だ。この高さから落ちたらモンスターとてひとたまりもないだろう。

脳も破壊されているはずだ。

しかし、なぜか俺の心は少々動揺していた。生ける屍が最後に叫んでいた妙な言葉が心に引っかかっているのだろうか。俺としたことがどうしたというのか。勝負はついた。忘れることにしよう。

「どうやら、テツはモンスターの技を盗んで使える能力を持っているらしいな」

金田にそう言われて、始めて気がついた。

「そうらしい。この技は、俺が部下をやらされている時に身につけたんだ。ゾンビ族どもに色々な技をかけられていじめられたもんでな。他にもいくつか覚えているよ」

「災い転じて福となすというところかしら?」

金田真奈芽の言葉に俺は笑みを返した。

「フッ。そんなところだろうな」

「ところで修理代はしっかり払ってもらいますからね」

「・・・・・・」